言葉23 当意即妙、軽妙洒脱なユーモアも、言葉の力
ウインストン・チャーチルは、第二次世界大戦を指導していく中で、閣僚その他、彼の指示や命令を聞く立場の人々に、「伝えたいことは紙に書け。」と命じています。口頭でなされた指示や命令は、人から人に伝えられていく中で、あるいは言葉が端折(はしょ)られ、あるいは潤色(じゅんしょく)され、末端まで正確に伝わるとは限りません。重大な戦局にあって、首相の指示や命令が正しく伝わない場合の実害として、想像できないほどの惨禍(さんか)を生む可能性があることを考えますと、チャーチルの、文書によって指示や命令を伝えろ、という言葉には、千鈞(せんきん)の重(おも)みが感じられます。また、チャーチルは、文章を書く者に対しては、「用紙一枚内に書け。」と命じています。時々刻々変化する、あわただしい戦局にあっては、ゆっくりとした時間はありません。 紙一枚いっぱいを使って文章を書くこと自体、時間を要します。また、読むことも、時間を要します。そのような時間を、最大限節約するためにも、文章は極端なまでに言葉を節約して、書かなければならなかったのでしょう。 チャーチルは、しばしば米大統領のルーズベルトと電報のやりとりをしています(書簡と電報を合わせて2000通といわれています。)が、まさに電文で書くような文を、すなわち極端に言葉を削り、磨き抜いた文章を、書いたものと思われます。
トップに求められる資質
チャーチルの、歴史に残した、磨き抜かれた言葉を思いますと、組織のトップになって、人材を指導していく人には、文を書き、磨き、それを舌に乗せて、ときに静かに、ときに獅子吼(ししく)して、弁ずる技量(ぎりょう)と資質(ししつ)が求められるものと思われます。
特に、政治家、その中でも首相、大統領など国家のトップに立つ人には、国威(こくい)を高める、少なくとも国威を落とすことのない弁を論ずる才は、必要不可欠なものでしょう(本書コラムの「20 荒れ野の四十年」に出てくるリヒャルト・ヴァイツゼッカー当時の西ドイツ大統領の演説は参考になるでしょう)。
「伝えたいことは書面に書け。紙1枚内に書け。」この言葉は、拳々(けんけん)服膺(ふくよう)し、大切にしたいものです。