2021/06/13 独立社外取締役に求められる適性
1 2020年4月7日、新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言の発令
質問
⑴厚生労働省の見解どおり,従業員に対し休業手当は、一切支払わなくてよいか。
⑵従業員に転勤を命ずることはできるか。
⑶転勤を断った従業員を解雇することができるか。
回答
⑴について
《結論》
貴社が,休業回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められる場合は,休業手当の支払が必要となる場合があります(「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」厚生労働省HP)。
《理由》
加藤勝信厚生労働大臣は,新型コロナウイルス特措法に基づき緊急事態宣言が発令され,特定施設の使用が制限された場合の使用者の休業手当支払義務について「一律に直ちになくなるものではない」と述べております。したがって,厚生労働省の見解は,「緊急事態宣言が発令された場合,一律に使用者は休業手当支払義務を負わない」というものではありません。
支払義務が免除される場合
では、休業手当を支払わなくてもよい場合とは?
①休業の原因が事業の外部より発生した事故であること
②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
の2つの要件を満たした場合とされています(「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」厚生労働省HP)。
本件は緊急事態宣言による営業所の休業による従業員の休業であるため,①の要件は満たすと考えられます。使用者としては、個々の従業員ごとに在宅勤務等,営業所を休業した場合でも勤務させることが可能な仕事がないかどうかをご検討する必要があります。この検討の結果,従業員が勤務可能な事情が存在する場合であるのに、休業させたときは、従業員に対し,休業手当の支払義務を負うと考えられます。
⑵について
《結論》
従業員に対し,転勤を命ずることは、以下の要件を満たす場合にのみ可能です。
①貴社の就業規則等に配転命令権の記載があるか,労働契約締結経緯等から貴社に配転命令権が認められること
②労働契約上,勤務場所の限定がなされていないこと
③配転命令が権利の濫用に該当しないこと
なお,新型コロナウィルスの蔓延が懸念される中,転勤を要請・命令することに法律上の問題はないと考えられます。
《理由》
②については,現地採用労働者につき問題になりやすいものがあります。この場合、労働者が就業規則上の転勤条項を明確に承知した上で雇用され,転勤の趣旨が余剰人員の雇用の維持にあるような場合は,一方的転勤命令が有効とされています(東京高判H12.5.24)。そのような事情がない場合は,現地採用で慣行上転勤がなかった労働者を他地の工場に転勤させるためには本人の同意が必要とされています(福岡地小倉支判S45.10.26)。
③の判断については,a配転の業務上の必要性,b労働者に対する不利益性,c使用者に配転についての不当な動機・目的がないかを考慮するとされています(「労働法務のチェックポイント」市川允編/株式会社弘文堂)。
(b)(「労働法」菅野和夫/株式会社弘文堂)。
⑶について
《結論》
整理解雇の4要素(人員削減の必要性,整理解雇の必要性,被解雇者選定の妥当性,手続の妥当性)を考慮して,整理解雇が認められる場合はあります。これは別論とします。
《理由》
裁判所は,使用者が配転,希望退職の募集などの解雇以外の他の手段を試みずにいきなり整理解雇の手段に出た場合は,ほとんど例外なくその解雇は解雇権の濫用と判断しています(最判S58.10.27)。そして,配転等の措置は,労働者が勤務地を限定している場合にも必要であると考えられています(「労働法」菅野和夫/株式会社弘文堂)。