コラム
日産のゴーンさん事件に関連しての質問あり。
2019年1月19日
以下は、弁護士後藤紀一の回答を、菊池が文章にしたものです。
1 ゴーンさんのしたことはともかく、「日産の取締役会で審議した議案の内容」を知ることはできるか?
【回答】
会社法では、監査役設置会社、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社の場合、①株主が株主権の行使するために必要がある場合で、かつ、②裁判所の許可を得れば、取締役会議事録の閲覧・謄写が許される(会社法371条1項2項3項)。日産は当然、この規定の適用を受けるので、株主が①②の要件を満たす限り、取締役会の議事録の閲覧・謄写は可能だ。
2 株式会社の議事録に記載される内容は、何か?
【回答】
会社法101条の3項によると、取締役会の議事録は、①日時・場所、②特別取締役による取締役会であるときは、その旨、③取締役以外の者の請求等により招集されたものであるときは、その旨、④議事の経過の要領・結果、⑤特別利害関係取締役がいるときは、その取締役の氏名、⑥監査役、会計参与等が取締役会において述べた意見・発言があるときは、その意見・発言の内容の概要、⑦出席した執行役、会計参与、会計監査人、株主の氏名・名称、議長がいるときは、議長の氏名を記載しなければならないと規定しているが、細かい審議状況まで書くことを要求していない。
3 上場会社の場合は、特に細かく審議事項を書くといった「取締役会議事録記載のルール」はないのか?
【回答】
ない。ただし、金融庁の上場銀行(持株会社を含む)向けの金融庁監督指Ⅲには、銀行はコーポレートガバナンス・コードを尊重してコーポレート・ガバナンスの充実に取り組むよう努めるものとし、その経営管理(ガバナンス)態勢のモニタリングに当たっては、取締役会の機能が適切に発揮されているかどうかを検証する項目があるので、上場会社である金融機関では、独自に、詳しい取締役会議事録がつくられている可能性はあるだろう。
4 日産の取締役や監査役には、コーポレートガバナンス・コード違反があったとは考えられないか?
【回答】
日産の事件で、取締役に、コーポレートガバナンス・コード違反があるとすれば、基本原則4の「取締役会等の責務」が問題になる。ゴーン事件では、取締役会を開かずにゴーンさんだけが勝手に使える機密費なるものがあったという新聞記事を見たが、そうであるなら、意思決定過程の合理性と透明・公正性を求めるコーポレートガバナンス・コードを遵守したとはいえないのではないかという疑問を持つ。コーポレートガバナンス・コード遵守違反があったとした場合は、取締役の監視義務違反の問題のほかに、監査役も通常の監査体制の下で当然分かるはずの不祥事を見逃していれば、善管注意義務違反の責任は免れないと思われるが、いずれにせよ、今は藪の中だ。
5 菊池の意見
ここで菊池の意見を挿入しますと、議事録の記載内容と、閲覧・謄写を許す内容は別に考えるべきだと思います。
すなわち、記載内容についていいますと、審議された内容は細大漏らさず、簡潔に記載し、少なくとも、経営陣が何をしているのかが、細かい部分にまで目が届くような書き方をすべきと考えます。
しかし、その議事録を株主に閲覧・謄写させる場合は、必要に応じて制限すべきものと考えます。
参考になるのが、公正文書の公開です。
行政文書は、原則として公開すべきものですが、「国の機関等の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの」については非公開とされています(行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条5項)ので、会社取締役会の議事録も、審議事項を丁寧に細かく書くが、株主からの取締役会議事録の閲覧・謄写の請求を受けたときは、会社の企業秘密にわたる部分は無論のこと、上記のような会社の利益を損なう部分は、非開示にすることで対応できるからです。
無論、株主のする閲覧・謄写は裁判所の許可を得た場合に限られますので、閲覧・謄写を拒否する範囲も、裁判所のチェックを受けて、決めることになり、公正性も担保されるはずだからです。
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