居住建物の修繕等
民法第1015条は、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」と規定しています。
この規定は、平成30年の改正の際に、改正前の「遺言執行者は相続人の代理人とみなす。」という字句を全部削除して、新たな字句に改められ、生まれた規定です。
それは、改正前の字句が、遺言執行者を相続人の代理人であるとする誤解を招いたからです。
遺言執行者には相続人を代理する権限は何一つ与えられていないのですから、その一事をとっても、遺言執行者を相続人の代理人だと考える説は、誤解だったのです。
改正前の規定は、遺言執行者がした行為の効果は相続人に帰属するという解釈がなされていたのですが、上記のような誤解が生まれ広がっていったことから、解釈文言をそのまま改正法の字句にしたのです。
その意味するところは、次のとおりです。
ア 遺言執行者制度の目的
遺言の執行は、遺言者の法的地位を承継した相続人がなすべきものですが、遺言の内容が相続人の利益に反する場合は、相続人に遺言の執行を期待することはできず、そのため遺言執行者制度を設けています。
イ 遺言執行者がいる場合
ですから、遺言執行者がいる場合は、遺言の執行は、遺言執行者のみができ、相続人は遺言の執行ができなくなります。
平成30年改正のとき、相続法第1012条第2項で、「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。」との規定を設けたのは、その意味です。
ウ 法律効果は、相続人に帰属する。
ですから、遺言執行者がその権限内において遺言執行者としてした行為は、相続人が遺言の執行をしたのと同じく、その効果は直接に相続人に帰属することになるのです。
その理を明らかにするため、改正法は、第1015条の字句を「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」に改めたのです。