第7章 遺言 第1節 総則 方式・能力・遺贈ほか
4 寄与分ある相続人の具体的相続分
【条文の引用】
第904条の2 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合(注:遺産分割の審判の請求があった場合の意味)又は第910条に規定する場合(注:遺産分割後に認知された子から価額の請求をする場合)にすることができる。
【解説】
(1) 寄与分の意味
ここでいう寄与分とは、「労務の提供」、「財産上の給付」、「被相続人の療養看護」が例示されていますが、方法のいかんにかかわらず、「被相続人の財産の維持又は増加」に寄与したことをいいます。
相続放棄も寄与分になりうる
父甲が亡くなったときの相続で、相続人の母乙が相続放棄をして子丙が父の財産を全部相続した後、子丙が亡くなったときの相続人が母乙と妻丁ということもありますが、このときの乙と丁との間で遺産分割をする際、母乙は、前記相続放棄を寄与分として主張することができます。
この理は、寄与分制度が設けられた昭和55年の相続法改正のときに公にされた最高裁判所事務総局、「改正民法及び家事審判法規の解釈運用について」、家庭裁判月報33-4、P6(新版注釈民法(27)、P270参照)が認めております。
すなわち、相続放棄(前記に例では、母乙の相続放棄)は、他の相続人(前記の例では、子丙)の財産を増やしたことに間違いなく、寄与を認めた方が公平であるとの理由です。
(2) 寄与分は、申立てをしなければ認められない
遺産分割の際、寄与分を認めてもらいたいと考える相続人は、他の相続人との協議(通常は遺産分割協議)のときに寄与分の主張をするのが一般ですが、協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所に、寄与分の申立てをしないとそれは認められません(904の2②)。
(3) 寄与分は、遺贈の価額を控除した残額を超えることができない
寄与分は、遺産分割の基準になる具体的相続分を算出する際にのみ考慮されるものですので、その寄与分は、遺産分割の対象になる財産の額が限度になります。これが、民法904の2第3項の「寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。」(904の2③)という規定の意味になります。
(4) 寄与分の算出方式
寄与相続人の遺産分割時の基準になる具体的相続分は、次の計算式で算出されます。
Step1:相続開始時財産 - 寄与分 = みなし相続財産
Step2:(相続人ごとに)
みなし相続財産 × 相続分(指定相続分又は法定相続分)=仮の相続分
Step3:(相続人ごとに)
仮の相続分 + 寄与分 = 具体的相続分
要は、寄与相続人がいる場合、相続財産の額から寄与分(額)を控除し、残った金額を相続人に指定又は法定の相続分で分け、寄与相続人には寄与分を加算するということになります。