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ウインストン・チャーチルに学ぶ⑤ ウインストン・チャーチルに影響を与えた人たち

菊池捷男

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テーマ:歴史と偉人と言葉

ウインストン・チャーチルに影響を与えた人たち

ウインストン・チャーチルを研究しているある歴史研究者の言によれば、
ウインストン・チャーチルは、愛情豊かな人物、兵士に慕われた人物、ユーモア精神に富み笑いの絶えない環境をつくった人物、寛容でなにかを根に持つようなことは一切なかった人物、ということです。
ウインストン・チャーチルのそのような人柄は、どうしてできたのか?について、同人は、二人の人物を挙げています。

(1)乳母エベレスト
一人は、ウインストン・チャーチルを十七歳まで育てた乳母エベレストです。
彼女は、ウインストン・チャーチルに対し、紳士であること、正直であること、公正で親切であること、つまる非の打ち所のない紳士であることを求め、教え続けた人物です。
ウインストン・チャーチルとは、彼のハーロ校の卒業式に、両親は来ずエベレストが来たほどの、実の親子のような親密な関係であったようです。
ウインストン・チャーチルも、エベレストを慕い、彼が十七歳の年、母が年老いたエベレストを解雇したとき、激怒し、彼女は、弟ジャック(十一歳)のために必要だという理由で、解雇に強く反対しております。
しかし、エベレストは解雇されました。
ウインストン・チャーチルは、今度は、解雇されたエベレストと文通で心の交流をしていきます。
そして、ウインストン・チャーチルはエベレストの死まで看取り、彼女が亡くなったときは、小遣いをはたいて葬儀の費用を捻出し、花輪、墓石まで用意しています。
エベレストの葬儀は、彼が二十歳のときにしたことです。

(2)妻クレメンテイン
もう一人は、妻のクレメンテインです。
クレメンテインとの結婚は、ウインストン・チャーチル、34歳の時です。
彼女は、ウインストン・チャーチルに対して、前記歴史研究者の言によれば、忠誠心と惜しみない献身を捧げ続けた、雄大で寛大な道徳観の持ち主です。
夫の代理を務め、夫の野心を世の中に投影する道具になることが政治家の妻の役目と心得た聡明な妻です。

第二次世界大戦の最中、夫が攻撃的な性格をむき出しにするようになったとき、次のような手紙をウインストン・チャーチルに渡し、夫の攻撃性を和らげる努力をしています。
この妻から夫への手紙は、1940年6月27日付けですから、戦局が最も緊張してきた時期、つまりは、ウインストン・チャーチルが、感情的、攻撃的になって、周りの者を怒鳴りつけていた時期の手紙です。

「親愛なるあなたへ・・・知っておいていただきたいことがあります。・・・怒らないで読んでくださいね。・・・あなたの側近の一人が私のところへ来て、あなたが同僚や部下からひどく嫌われているようであると伝えてくれました。・・・原因は、あなたの辛辣、横柄な態度です。・・・あなたは、上の位の人に対しても、軽蔑的態度を示しております。
これらはすべて、私自身も、気が付いていることです。
あなたの今のような態度では、部下その他の人から、良い案も悪い案も出てこないと思います。
あなたは、以前のような優しい人ではなくなってしまいました。
・・・
あなたの巨大な権力に、上品な振る舞い、思いやりを添え、あなた自身は超然と構えていてほしいのです。
短気や無礼からは最高の結果は生まれないと思うのです。
かえって部下や同僚から嫌悪感を持たれ、彼らが奴隷精神につながるのは必至です。
・・・どうかあなたを愛し、尽くし、見守るこの私をお許しください。
クレミー」

このクレミ-は、戦後、イギリスが彼女に爵位を与えたほどの人物です。
ウインストン・チャーチルとの間に生まれた、ダイアナ、ランドルフ、サラ、メアリーの四人を育て、ウインストン・チャーチルの美徳と魅力を、最大限引き出したといってよい人物だったのです。

ところで、この妻クレミーのことを、ウインストン・チャーチル自身、どう思っていたかといいますと、「私の業績の中で最も輝かしいことは、妻を説得して私との結婚に同意させたことである。」という言葉に、その思いが尽きているように思われます。

(3)父ランドルフ
私、著者は、この二人のほかに、ウインストン・チャーチルに影響を与えた人物としては、彼の父ランドルフ・チャーチルを挙げたいと思います。考えようによっては、この父親の影響が最も大きいものであるかもしれません。
この父ランドルフについて、後年、ウインストン・チャーチルは、子であるランドルフと一日の多くの時間、親子としての親しい会話の時間を持ったとき、子であるランドルフに、私が父ランドルフと話をした時間の総計(20年以上の期間の中の時間)は、今日お前と話をした時間により少なかったと語っているほど、ウインストン・チャーチルと父ランドルフは、疎遠な関係にあったようです。
しかし、そのことが、逆に、ウインストン・チャーチルをして、父ランドルフに対する思慕の情を起こさせるものになっていたようです。
それは、長男の名を父と同じ名にしたことや、後年ウインストン・チャーチルが下院議員になって初めて演説をした(処女演説の)とき、かつて、父ランドルフが処女演説をした席からし、ウインストン・チャーチルの演説を聴こうとする下院議員に、父へ向けられた友情を感謝するという言葉で謝意を表したこと、ウインストン・チャーチルが父ランドルフに関する資料を集め伝記を書いたこと(ウインストン・チャーチル31歳のときです。)、父の肖像画を家庭に掛けていたことなどからも見て取れます。

それほど、ウインストン・チャーチルから思慕されたランドルフとは何者かといいますと、公爵家の三男で、たいへん有能な政治家で、若くして財務大臣になりますが、根が狷介なところがあったらしく、多くの仲間と喧嘩をして嫌われます。そして、ついに腹立ち紛れに、首相から慰留されるだろうと考え、財務大臣を辞任する辞表を提出するのですが、首相も、問題児ランドルフの辞表を、もっけの幸いとして受理し、ここにランドルフの政治生命は終わります。
しかしながら、ランドルフは、文章の才と演説の才を、ウインストン・チャーチルに引き継がせていたように思われます。

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