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コラム

敵対的買収からの防衛失敗例

2018年5月8日

テーマ:菊池と後藤の会社法

コラムカテゴリ:法律関連

菊池:では、次に、敵対的買収に対する防衛策が認められなかった例を教えてくれるかい?
後藤:「いなげや・忠実屋事件」があるよ。
菊池:それはどんな事件なんだい。
後藤:これは、秀和(不動産業を営む会社)という会社が、中堅スーパーの「いなげや」と「忠実屋」に対して、敵対的企業買収を開始したところ、これに対抗して、いなげやは忠実屋に新株の第三者割当をし、忠実屋はいなげやに対し新株の第三者割当をして、両社とも、秀和の持株比率を希釈化したというケースなのだ。なお、新株の第三者割当でいう「第三者」は、白馬に乗って救出に駆けつけてくる騎士のイメージから「ホワイト・ナイト」といわれるよ。
菊池:で、それは成功したのかい?
後藤:成功しなかったねえ。秀和が、東京地裁に、それぞれの新株発行の差止を求める仮処分を申請し、裁判所がいなげやと忠実屋双方の第三者割当増資を差し止めたからだよ。
菊池:第三者割当増資を差し止めた裁判所の理由は何だったのだい?
後藤:東京地裁は、いなげやの新株発行も、忠実屋の新株発行も、経営者の保身のため(経営者の個人的利益を目的としたもの)にしようとするのだから、会社法に規定された取締役の忠実義務に違反する「著しく不公正な発行」になるという理由だ。
菊池:その理由を、もう少し分かりやすく言ってくれ。
後藤:この東京地裁の決定は、はじめて「主目的ルール」という考えを明らかにしたが、その内容は、新株の発行が有効か無効かは、資金調達と会社支配権の維持のいずれが主目的であるかよって決めるべきであり、主目的が資金調達であれば、新株発行は有効になるが、新株の発行が経営者の保身目的にあるものなら無効になるという考えだ。この「いなげや・忠実屋事件」は、いなげやは忠実屋に対して新株を発行して、新たな資金を得ながら、その資金を使って、忠実屋がする第三者割当に応じて資金を流出させているので、資金需要があったとはいえないだろう。忠実屋にしても同じだ。だからこの件の新株発行の主たる目的が買収阻止という保身目的にあったことは明らかだよな。なお、経営者の保身目的のこのような「持ち合い株式」は、コーポレートガバナンス・コードでも、問題として取り上げられているよ。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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