コラム
一般財団法人の理事長を頼まれた人の心構え
2018年5月7日
Q 私は、ある一般財団法人の理事長になることを頼まれた者ですが、どうも私の名前だけが必要のようでして、私は、実際にはなにもしないでよいということです。しかしながら、理事長ということになれば、責任も伴うと思いますので、そのあたりのことを教えていただきたいのですが?
A 一般財団法人(公益財団法人であっても同様)の理事長は、株式会社の代表取締役と同じように考えてよいでしょう。なお,以下では,一般財団法人に関する規定を説明いたします。
2 理事の権限
理事会非設置一般財団法人では,定款に定めがある場合を除き,理事は法人の業務執行権限を有します。理事会設置一般財団法人では,理事は3人以上でなければならず,その全ての理事で理事会が構成されます。理事会は,法人の業務執行の決定,理事の職務執行の監督,代表理事の選定及び解職を行うとされています。理事を取締役と,理事会を取締役会と置き換えてみていただければ分かりやすいでしょう。理事長になれば,業務執行の権限を有することになります。
3 理事の責任
理事には,善管注意義務と忠実義務がありますので,理事として相当な程度の注意を尽くして業務を遂行しなければなりません。また,法令,定款を遵守して,一般財団法人のために忠実にその職務を行わなければならなりません。
(1)理事の競業と利益相反取引は制限されます。理事が競業取引等を行う場合には,事前に理事会の承認を得なければなりません。また,理事は,財団法人等に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見した場合には,その事実を監事に報告しなければなりません。
(2) 内部統制システムの整備義務
ところで,理事の責任に関して内部統制システム(理事の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他一般財団法人の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制)の整備が問題になることがあります。内部統制システムを整備している会社の場合は,想定外の不祥事については,取締役に責任はないとされています(想定内の不祥事については取締役に責任があるとされます)。内部統制システムを整備していく必要があるかと思います。
会社法上は,大会社及び指名委員会等設置会社の場合,内部統制システムを整備する義務があります。財団法人についても,大規模一般財団法人である理事会設置一般財団法人は内部統制システムの整備が義務付けられています(法197条で準用する90条4項5号及び5項)。なお,大規模一般財団法人とは,最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である一般財団法人をいうとされています(法2条2号)。
また,内部統制システムの整備義務は,平成29年の地方自治法の改正で自治体にまで及んでいます。会社に関しては,大会社等でなくても,内部統制システム整備義務が類推適用される可能性があるとされていますので,大規模一般財団法人ではない財団法人であっても,同様に内部統制システムの整備義務が求められる可能性はあるでしょう。
4 訴訟等のリスク
以上にかかる任務懈怠があれば,理事や理事長は、財団法人との関係で損害賠償責任を負う場合があります。
また,第三者に対する責任が発生することもあります。理事がその職務を行うにあたり悪意または重大な過失があった場合には,これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うとされています。計算書類等の虚偽記載などがあった場合も同様です。
会社法に関する判決ですが,昭和44年11月26日の最高裁大法廷判決によれば,代表取締役が,他の代表取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりとし,その業務執行に何等意を用いることなく,ついにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠を看過するに至るような場合には,自らもまた悪意または重大な過失により任務を怠つたものと解するのが相当である,と判示されています。名目的な理事長である場合でも対第三者責任が生じるおそれがありますので,ご注意ください。
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