コラム
内部統制システムとは何?③ 内部統制システムが構築されていると判断された例
2018年2月21日
1 最高裁判決
最高裁平成21年7月9日判決は、内部統制システムが十分にできているという理由で、従業員の不法行為(犯罪行為)に気がつかなかった取締役の責任を否定した。
この判決文は、次のとおりである。
なお、「 」括弧書き内のものは判決より引用した文であるが、読者の理解に便ならしめる目的で、一部につき行を変えたところがある。
「しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
前記事実関係によれば,本件不正行為当時,上告人は,
〔1〕職務分掌規定等を定めて事業部門と財務部門を分離し,
〔2〕C事業部について,営業部とは別に注文書や検収書の形式面の確認を担当するBM課及びソフトの稼働確認を担当するCR部を設置し,それらのチェックを経て財務部に売上報告がされる体制を整え,
〔3〕監査法人との間で監査契約を締結し,当該監査法人及び上告人の財務部が,それぞれ定期的に,販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙を郵送し,その返送を受ける方法で売掛金残高を確認することとしていたというのであるから,
上告人は,通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていたものということができる。
そして,本件不正行為は,C事業部の部長がその部下である営業担当者数名と共謀して,販売会社の偽造印を用いて注文書等を偽造し,BM課の担当者を欺いて財務部に架空の売上報告をさせたというもので,
営業社員らが言葉巧みに販売会社の担当者を欺いて,監査法人及び財務部が販売会社あてに郵送した売掛金残高確認書の用紙を未開封のまま回収し,金額を記入して偽造印を押捺した同用紙を監査法人又は財務部に送付し,見掛け上は上告人の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致するように巧妙に偽装するという,通常容易に想定し難い方法によるものであったということができる。
また,本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど,上告人の代表取締役であるAにおいて本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない。
さらに,前記事実関係によれば,売掛金債権の回収遅延につきBらが挙げていた理由は合理的なもので,販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく,監査法人も上告人の財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたというのであるから,財務部が,Bらによる巧妙な偽装工作の結果,販売会社から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し,直接販売会社に売掛金債権の存在等を確認しなかったとしても,財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない。
以上によれば,上告人の代表取締役であるAに,Bらによる本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできない。」
3 この件に見られる、内部統制システムの内容
この件では、会社が、
①事務分掌規定等を定めて、事業部門と財務部門を分離し,
② 事業部については,営業部とは別に注文書や検収書の形式面の確認を担当する課及びソフトの稼働確認を担当する課を設置し,それらのチェックを経て財務部に売上報告がされる体制を整え,
③監査法人との間で監査契約を締結し,当該監査法人及び財務部が,それぞれ定期的に,チェックする体制(具体的は、販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙を郵送し,その返送を受ける方法で売掛金残高を確認するなどの体制)ができていたこと、
が内部統制システムとして十分にできていると判断されたものである。
この件の会社の場合、従業員某が、巧妙な文書偽造や詐欺的手法で、架空売上などをして、金銭の横領をしたため、多額の損害を被ったが、最高裁は、この会社の場合、通常想定される架空売上げ等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていたので、前記特殊な方法による犯罪を見抜けなかったことに、善管注意義務はないという判断を下したのである。
したがって、この会社の場合の内部統制システムとは、前記①②及び③ということになる。
参照:
前記最高裁判決は、「従業員の架空売上計上により有価証券報告書に不実記載が行われ、株主が損害を被ったことにつき、代表取締役にリスク管理体制構築義務違反の過失はないとして、会社法350条に基づく会社の責任が否定された判決として紹介されている(江頭憲治郎「株式会社法」第7版418ページ)。
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