コラム
テレビ報道等が名誉毀損になる場合① 基本判例
2018年2月13日
最高裁判所平成15年10月16日判決は、次のような判決をし、テレビ局の責任を認めました。
この判決は、その後、同類型の訴訟で引用されるほど基準になる判例になりました。
括弧内「 」は、判決の引用文。ただし、「 」内の①②は、筆者が付けたもの
1 基準とすべきものは、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方
「 新聞記事等の報道の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(新聞報道に関する最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決),テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについても,同様に,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。
そして,テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当である。」
2 テレビに特徴的なもの 再確認ができない瞬間性
「テレビジョン放送をされる報道番組においては,新聞記事等の場合とは異なり,視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,録画等の特別の方法を講じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができないものであることからすると,当該報道番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については,当該報道番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,判断すべきである。」
3 事実関係のうち「明らかにしなかった事実」ほうれん草のをメインとする葉っぱ物といいながら、最高値の数字がせん茶のついての数値であることその他
「 本件放送の後半のI所長との対談の冒頭部分で,Jキャスターは,今夜は,K株式会社が所沢市の野菜のダイオキシン類汚染の調査をした結果である数字を,あえて本件番組で発表するとした上で,本件フリップを示して「野菜のダイオキシン濃度」が「所沢(K株式会社調べ)0.64~3.80ピコg/g」であると述べ,上記対談の中で,I所長は,本件フリップにある「野菜」が「ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物」である旨の説明をしたが,その際,その最高値である「3.80ピコg/g」がせん茶についての測定値であることを明らかにせず,また,測定の対象となった検体の具体的品目,個数及びその採取場所についても,明らかにしなかった。」
4 データ(数値)を基に、数値を生み出した物以外の物の危険性を説明した「
「I所長は,上記対談の中で,主にほうれん草を例として挙げて,ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物のダイオキシン類汚染の深刻さや,その危険性について説明した。」
5 他の事実についての報道
「 ①本件放送の前半の録画映像部分においては,所沢市には畑の近くに廃棄物の焼却炉が多数存在し,その焼却灰が畑に降り注いでいること,②市農協は,所沢産の野菜のダイオキシン類の分析調査を行ったが,農家や消費者からの調査結果の公表の求めにもかかわらず,これを公表していないこと等,所沢産の農産物,とりわけ野菜のダイオキシン類汚染の深刻さや,その危険性に関する情報を提供した。」
6 報道直後の影響 ー 名誉毀損の結果
本件放送の翌日以降,ほうれん草を中心とする所沢産の野菜について,取引停止が相次ぎ,その取引量や価格が下落した。
7 最高裁判所の判断 ー テレビ放送が報道した事実
「 これらの諸点にかんがみると,本件放送中の本件要約部分等は,ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が全般的にダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,その測定値は,K株式会社の調査結果によれば,1g当たり「0.64~3.80pgTEQ」であるとの事実を摘示するものというべきであり(以下,この摘示された事実を「本件摘示事実」という。),その重要な部分は,ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が全般的にダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,その測定値が1g当たり「0.64~3.80pgTEQ」もの高い水準にあるとの事実であるとみるべきである。」
8 同判断 ー 報道の内容が真実であることの証明があったか?
「 K株式会社の調査結果は,各検体1g当たりのダイオキシン類(コプラナーPCBを除く。)の測定値が,せん茶(2検体)は3.60pgTEQ及び3.81pgTEQであり,ほうれん草(4検体)は0.635pgTEQ,0.681pgTEQ,0.746pgTEQ及び0.750pgTEQであり,大根の葉(1検体)は0.753pgTEQであったというのであり,本件放送を視聴した一般の視聴者は,本件放送中で測定値が明らかにされた「ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物」にせん茶が含まれるとは考えないのが通常であること,せん茶を除外した測定値は0.635~0.753pgTEQであることからすると,上記の調査結果をもって,本件摘示事実の重要な部分について,それが真実であることの証明があるといえないことは明らかである。」
9 同判断 ー テレビ局の事実報道
「 ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が全般的にダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,その測定値が1g当たり「0.64~3.80pgTEQ」もの高い水準にあることであり,一般の視聴者は,放送された葉物野菜のダイオキシン類汚染濃度の測定値,とりわけその最高値から強い印象を受け得ることにかんがみると,その採取の具体的な場所も不明確な,しかもわずか1検体の白菜の測定結果が本件摘示事実のダイオキシン類汚染濃度の最高値に比較的近似しているとの上記調査結果をもって,本件摘示事実の重要な部分について,それが真実であることの証明があるということはできないものというべきである。」
10 結論
「 本件摘示事実の重要な部分につき,それが真実であることの証明があるとはいえない。
そうすると,・・・真実であることの証明があるものとして,名誉毀損の違法性が阻却されるものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人らの被上告人に対する請求に関する部分は破棄を免れない。そして,本件については,本件摘示事実による名誉毀損の成否等について更に審理を尽くさせる必要があるから,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。」
11 差戻審の結果
東京高等裁判所で審理されたが、テレビ局が原告に1000万円を支払う内容で和解が成立
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