ホールディングスのメリット・デメリット
3 金庫株解禁の理由および利用方法
菊池: だけど、金庫株の保有は解禁されたんだよなあ。理由は何だい。
後藤: それは金庫株を解禁した平成13年という時代を見るとよく理解できるよ。つまり、これ以前には一時4万円に届きそうな勢いであった日経ダウ平均株価が、平成13年にはなんと8000円ほどに暴落しただろう。この結果、会社は資金調達に困難をきたしたが、それだけでなく、外国企業は、価格が安くなった日本の会社の株式を、ピーク時の4分の1以下の価格で買収できることになったんだ。そこで、政府・自民党は、買収阻止の目的で、上場株の価格を上げることを重要政策課題として、金庫株の保有を解禁したんだ。
もちろん、金庫株の解禁によってもたらされる効果は、株価の値上がりだけではなく、以下のようにいろいろあるので、現在は、目的に応じて、利用されているよ。
第一は、ストック・オプション(stock option)のための利用だ。ストック・オプションとは、会社の経営者や従業員等が自社株を一定の価格で購入できる権利をいい、将来株価が上がれば、この権利を行使して株式を取得して市場で売却する。そうなると利益を得ることができるだろう。そのようなインセンティブ報酬としての利用だよ。つい先日、アメリカのアップル社が従業員に、賞与としてストック・オプションを与えると発表した(発表は平成30年1月18日、つまり昨日)が、あれだよ。
第二は、株式交換、会社分割、合併などの企業再編のときの対価として、あらかじめ保有しておくためだ。
第三は、敵対的買収に対する防衛のために利用する。一定の限度であるが、発行会社は、敵対的企業買収者が現れた場合には、保管している金庫株を自己と提携している会社等のいわゆる「ホワイトナイト(友好的企業)」に買ってもらうことによってこれを防ぐこともできるんだ。
第四は、残存している(転換社債型)新株予約権付社債権者から新株予約権の行使があったときは、金庫株を交付することができる。
第五は、従業員持株会への売却のためだ。
4 議員立法で、迅速な改正
菊池:法律の改正は、ずいぶん時間がかかるだろうに、金庫株の解禁という法律の改正は迅速にできたようだねえ。何故なんだい?
後藤:会社法は、基本六法の一つであるから、通常なら、他の法律との調整などの必要もあり、学者を中心とした法制審議会の議を経てなされるものなんだが、金庫株解禁のときは、そんな悠長なことはできないと考えたんだろうね、議員立法によって、あっという間にできたんだ。