使用者のための労働問題 普通解雇と懲戒解雇の違い
Q 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、平成25年4月1日から施行されています。これによれば、当社の定年年齢は63歳ですが、65歳まではそのまま継続して雇用する義務があるということですか?
A 高齢者雇用安定法9条は,企業に対して,65歳までの安定した雇用を確保するための措置をとることを求めています。そのうちのひとつが継続雇用制度の導入です。 継続雇用制度は,高齢者の雇用を確保しようという趣旨に反しない限り,各企業の実情に応じて柔軟に内容を定めうると理解されています。賃金その他の処遇についても労使の協議に委ねられていると解されています(資料1,p711)。
厚生労働省のウェブサイトでも,高年齢者雇用安定法の求めているのが継続雇用制度の導入であり,「事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく,事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,…結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても,高年齢者雇用安定法違反となるものでは」ないとの回答があります(資料2)。
したがいまして,原則として,職務内容を含む労働条件については,再雇用希望者と協議して決めていただければよく,折り合いがつかないことにより,再雇用に至らなかったとしても高年齢者雇用安定法違反にはなりません。
裁量の限界あり
ただし,企業がどのような労働条件を提示しても問題ないということではありません。厚生労働省が「合理的な裁量の範囲の条件」と記載しているように,高年齢者雇用安定法の趣旨を没却するような極端な労働条件を提示した場合には問題の生じるおそれがあります。
名古屋高裁平成28年9月28日判決は,大学卒業後に事務職に従事してきた者に対して,シュレッダー機ごみ袋交換・清掃,再生紙管理,業務用車掃除,清掃(フロアー内窓際棚,ロッカー等)等の作業をすることを定年後再雇用の労働条件として提示した事案です。判決は,それまでの職種に属するものとは全く異なった単純労務職としての業務を提示することについて,「(再雇用希望者が)いかなる事務職の業務についてもそれに耐えられないなど通常解雇に相当するような事情が認められない限り,改正高年法の趣旨に反する違法なものといわざるを得ない」と判断して,慰謝料の請求を認めています(資料3)。
同判決の解説は,①給与水準が「無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額」である場合,②「社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容」である場合について,実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められず,企業側の裁量の限界を超えることになるとしています(資料4)。
資料1 「労働法(第11版)」菅野和夫,弘文堂平成28年,pp.710-712
資料2 「高年齢者雇用安定法 Q & A」 厚生労働省
資料3 名古屋高等裁判所平成28年9月28日判決
資料4 労働判例1146号22頁