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身を滅ぼす怒りの元 1

菊池捷男

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テーマ:歴史と偉人と言葉

 徳川家康が、惜しんでも余りある、そして生涯の悔いになった長男信康の切腹。
その原因が、信康の怒りの感情にあったとすると、その身を滅ぼした怒りの元は、はっきりさせておきたいものである。

 信康は、妻である織田信長の長女徳姫の侍女を、怒りの感情から、徳姫の目の前で、しかも残虐な方法で殺した。また、信康は、鷹狩りでの不猟を、たまたま出会った僧侶のせいだとして、その僧侶を殺した。
その暴虐を、徳川家の重臣から咎められ諫言されたとき、自分が僧侶を殺した罪など、岳父たる信長が石山本願寺の信徒多数を殺害したことと比べ軽いものだと放言した。

 信康の二件の殺人には、殺人を正当化させる理由はない。一方、信長のした石山本願寺に籠もった兵や家族の殺戮は、戦争の中での殺戮である。戦争時に人を殺すことと、平生の生活の中で罪なき弱者を殺すことの違いもわきまえない信康の思慮を、信長は、“たわけ”と言い捨てた。そして、このような“たわけ”を、武田軍の前に置いておくことは危険だとして、家康に、信康は可愛い娘の婿であるが、切腹をさせても苦情は言わないとの言葉を伝えて、信康を死に至らしめたのである。

 信康の死の原因は、怒りの感情の爆発であった。豊臣家が大阪夏の陣で滅んでしまった遠因も、淀君という一人の女性の怒りの感情であった。
では、怒りの感情、すなわち、身を滅ぼすことや大事を誤ることになる激気は、どのようにして、人の中で生まれたのであろうか?
また、人は、このやっかいな激気という魔物を、抑えることはできないのであろうか? 
次回に、この問題を少し考えてみたいと思う。

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菊池捷男(弁護士)

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