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多重代表訴訟って、何だ?

菊池捷男

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テーマ:菊池と後藤の会社法

「のう、後藤、多重代表訴訟とは何だ?」 
「菊池よ。以前に、カブダイのことを言っただろう。あれは、株主から会社の取締役等役員に対する責任追及制度のことなんだが、会社の中には、株主が親会社だけという会社もあるわなあ。そんな会社を完全子会社というのだが、完全子会社の役員が不正な行為をするとか、善管注意義務に違反するかして、完全子会社に損害を与えたが、その唯一の株主である親会社が、完全子会社の役員に対し、人間的な関係から、カブダイの権利を行使しない場合もあるだろう。そんな場合もあることから、法は、親会社の株主から、完全子会社の役員に対し、損害賠償請求をすることを可能にする道を開いたんだ。これが、多重代表訴訟という制度なんだ。」

「なるほどなあ。完全子会社の場合は、親会社以外に株主がいないのだから、そしてまた、親会社の役員と完全子会社の役員間に狎れなどがあると、親会社が完全子会社の役員に対し、カブダイ訴訟を起こすべきときに起こさないということもあるわなあ。そのときのための制度なんだなあ。」

「菊池よ。以前、ホールディングスが増えた理由について説明したとき、純粋持株会社が、平成9年の独禁法の改正の時に解禁された話をしただろう。それ以後、完全親会社も、完全子会社も増えたんだ。それにより、完全子会社の役員に対してカブダイがしにくくなったんだ。それというのは、完全子会社といえども、独立の法人格を有する法人である以上、その株主でもない者(完全親会社の株主)からは、責任追及ができないことと、先ほど言った理由で、完全子会社の唯一の株主である完全親会社がカブダイをしたがらない傾向があることからだ。しかし、これでは、会社のする不正な行為などの是正ができないという問題が起きてきて、平成26年会社法が改正された時に、この多重代表訴訟(別名、二重代表訴訟)が認められたんだ。会社法では、これを「最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴え」(会社法847条の3)というがな。」

「ところで、後藤よ。完全子の作り方だが、一般的には、どんな方法でするんだい。」
「現在では、株式交換、株式移転、会社分割によって、簡単に完全親子関係の会社を作ることができ、さらに子会社も更なる完全子会社(つまりは完全親会社から見て完全孫会社)を簡単に作ることができるようになったよ。」

「後藤よ。多重代表訴訟制度も、やっぱりアメリカの制度の輸入かい?」
「そうだよ。」

「我が国の多重代表訴訟の要件は、何だい?」
「それは、
第1に、多重代表訴訟を利用することができる株主は、最終完全親会社(非上場会社を含む)株主に限定されること。
第2に、総株主の議決権の1%以上の議決権又は持株比率が1% 以上であること。
第3に、最終完全親会社が公開会社である場合には、当該株主は、最終完全親会社の株式を6か月前(定款で短縮することができる)から継続保有していること。
第4に、対象役員は、最終完全親会社の重要な完全子会社(当該完全子会社の株式の帳簿価額が、最終完全親会社等の総資産額の5分の1超の会社)の役員に限定されること。
の四点だ。」

「ところで、後藤よ。多重代表訴訟の実効性という面から訊きたいんだがな。この制度は、実際に使える制度なのかい?制度はできたが、絵に描いた餅よろしく、あまり利用価値がないというんじゃなかろうなあ。」
「まず問題になるのは、1%以上の議決権要件又は1%以上の持株比率要件だ。上場企業でこの要件を満たすことはかなりハードルが高い。さらに、当該完全子会社の株式の帳簿価格が最終完全親会社の総資産の5分の1超あるような大規模完全子会社は、多くの完全子会社等を傘下に置く大企業グループではそんなに多くない。
そうすると、多重代表訴訟を利用することができる会社は、①非上場の中堅クラスの企業グループの中の、②完全親会社の中で株主間に対立が起こっていて、③そのどちらかの派閥に属する完全子会社の取締役等の役員が、完全子会社で不正行為等をしたことよって完全子会社等に損害を生じさせた場合に限られるのじゃあないかと思えるよ。」

「う~ん。では、そんなに利用はされそうもないなあ。」
「しかし、制度はできたんだ。後は、運用だろう。制度を生かすも殺すも、運用者次第だが、訴訟社会であるアメリカの制度を、そのまま、争いを好まない和の精神の強い我が国の土壌に植えて、はたしてどの程度利用されるのか?気長く様子を見るほかないだろうなあ。」

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菊池捷男
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菊池捷男(弁護士)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

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