2 会社法の条文構成
1 株式会社の監査機関
平成26年に会社法が改正され、株式会社の監査機関として、「監査等委員会」を設置することができるようになりました。
これにより、株式会社の監査機関は、
①「監査役」(中小企業に最も多く見られる機関)、
②「監査役会」(主として大企業が採用している機関)
③「監査委員会」(「指名委員会等委員会」設置会社にある監査機関)
④「監査等委員会」(会社法平成26年改正により認められるに至った機関)
になりました。
上場会社の大部分は、監査役会設置会社ですが、これからは「監査等委員会」設置会社が増加することが予想されます。日経新聞報道によれば、速くも、本年7月時点で、上場会社の2割が監査等委員会設置会社になったようです。
2 従前の各監査機関の問題点
①「監査役設置会社」では、監査役は、取締役会に出席しなければならないが議決権がないこと、また、監査役は業務執行に関与しないため監査役の権限も違法性監査に限定されることから、監査役の監査機能には限界があること。
②「監査役会設置会社」では、2名以上の社外監査役の選任が義務付けられているが、上場会社およびそれに準じる大会社の場合には(有価証券報告書提出会社)、事実上2名以上の社外取締役の選任を義務付けられている(社外取締役を選任しない場合は、選任しない理由の開示が求められる)ため社外から、2名以上の社外監査役及び2名以上の社外取締役を選任しなければならないことになり、負担が大きいこと。
③「指名委員会等設置会社」の場合は、取締役会の下に、「監査委員会」「指名委員会」及び「報酬委員会」を設置しなければならず、取締役選任の人事権および、取締役の報酬の決定権が月に1回とか2回ぐらいしか出社しない社外取締役に事実上握られることを、会社が嫌う傾向にあること。
2 改正法により新設ができる監査等委員会とは?
(1)任意機関であること。すなわち、監査等委員会の設置は任意です。従来型の監査役会設置会社が監査等設置会社に移行するかどうかは、各会社(公開か非公開、大会社かどうかを問わない)の選択により、定款を変更すれば移行することができます。
(2)監査等委員会の委員である取締役の任期は、他の取締役が1年に対して、2年です。また、その選任については、他の取締役と区別して各別の議案として決議しなければなりません。(選任特則、登記事項)。
(3)監査等委員会の委員は、取締役であるため、取締役会の決議事項について議決権を有します。
(4)監査等委員会の委員である取締役は、職務の性質上(実質上監査役であるから)、当該会社もしくはその子会社の業務執行取締役もしくは支配人その他の使用人等を兼務できません。
(5)監査等委員会設置会社は、取締役会および会計監査人を置かなければなりません。
(6)指名委員会等設置会社のように、指名委員会や報酬委員会を置く必要がないので、従来通り、取締役の人事権および報酬の決定権を取締役がにぎることがができます。
(7)監査等委員会の委員以外の取締役の利益相反取引については、監査等委員会の事前の承認を得た場合には、任務懈怠の推定規定は適用されないことになります。
3 監査等委員会設置会社に関する問題点
上記のように、監査等委員会制度は、アメリカ型の指名委員会等設置会社と監査役会設置会社のいいとこ取りのようにもみえますが、次のような問題点が指摘されています。
第1に、監査等委員会を設置する場合には、取締役会を設置し、会計監査人を選任した上に社外取締役を最低2名は選任しなければならないので、中小会社が監査等委員会設置会社に移行することは困難であること。
第2に、監査等委員会の委員は、取締役であるので、同じ仲間である他の取締役の不都合を厳しく指摘することができるか。また、監査等委員になった社外取締役は、会社内の事情に精通しているわけではないので、おのずから監査に限界があとされています。
東芝は、指名委員会等設置会社を選択した会社ですが、同社の不祥事を考えると、監査等委員会の監査の困難性が思わせられます。
第3に、監査等委員会は、取締役会から独立の立場で監査しなければならないのですが、監査等委員会の委員は、独任制でないため(チーム監査)各監査等委員が単独で監査行為ができず、任期が2年であり短いため(ちなみに、監査役会の監査役の任期は4年)、十分な監査ができるかについては心配されています。
なお、日経新聞「導入1年400社超が設置―監査等委割れる評価―」2016年7月25日を参照してください。