改正法の下では、特別損害の範囲が変わる 主観から客観へ
現行法にあっては、契約を解除するには、債務者の帰責性(故意又は過失)が必要です(民法543条ただし書)。
しかしながら、改正法にあっては、契約の解除に債務者の帰責性は要求されないことになります。
民法543条ただし書が削除されるからです。
ですから、現行法下で、「瑕疵」とされているものを具体的に特定して、それがないことを「契約の内容」とすれば、仮にその存在について債務者(売主)に帰責性がなくとも、解約の解除ができることになります。
一例を挙げますと、中古住宅の売買契約での「自殺の履歴」があります。
現行法下では、中古住宅内で自殺があったというだけでは、裁判例では、売買契約を解除することは認めていません。
例えば、東京地裁平成18.7.27判決は、父親に殺害された子の妻が、それを知った直後に、建物内で自殺した事件ですが、裁判所は、購入金額の25%相当額の損害賠償を認めただけです。
しかしながら、一般に、中古住宅の購入者は、精神的にも安らぎをもってそこで生活したいはずですので、中古住宅を購入した後、そこで自殺者がいたということを知れば、25%の減額では納得しない人が出ても不思議ではないでしょう。
そういう人は、自殺の履歴があるというだけで、売買契約を解除して、自殺のない物件を買うという選択肢を与えてもよいと思われますが、現行法では認められていなくとも、改正法下では、契約内容の書き方しだいではこれが可能になります。
それには、売買契約の内容として、「自殺者がいないこと」を、挙げておく必要があります。
自殺以外でも、現行法の下では瑕疵とされるものを、契約の内容にしていけば、債務者(売主)に帰責性がなくとも、売買契約を解除することは可能になります。
ただし、改正法541条のただし書で「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。」と規定されていますので、瑕疵が軽微なものとされると、中古住宅の売買契約を解除することができない場合も生じるものと思われます。
例えば、「雨漏りのしていない建物」を契約の内容にしても、雨漏りが簡単に補修できる程度のものなら、解除までは認められないものと思われます。
いずれにせよ、契約の内容は、よく考えて定めなければなりません。