コラム
法理と判例
2017年4月26日
法の世界には「理」があります。
理とは、「理屈」の理であり、「理論」の理のことです。
しかし、この理は、法律の条文の中に書かれているわけではありません。
「理」は、最高裁判所の判決や決定の中で生まれるのです。
この、最高裁判所の判決や決定の中で生まれる「理」は、「判例」といわれます。
判例は、言わば、法的紛争解決への道標(道しるべ)です。
例えば、「預金は遺産分割の対象になるか?」という法的問題では、判例は、かつては、預金は遺産分割の対象にならないとしていたものを、平成28年12月19日最高裁判所大法廷の決定で、従来の判例を変更して、預金は遺産分割の対象になると判示しました。
この判例変更は、マスコミに大きく取り上げられましたので、ご存じの方も多いだろうと思います。
これにより、以後は、「預金は遺産分割の対象になる」という理で、遺産分割の審判などがなされることになるのです。
このように、判例は、法的紛争解決の道しるべになるのです。
理には、原則的「理」と応用による「理」があります。
ところで、実は、この最高裁大法廷決定の中には、判例変更にならなかった“もう一つの理”があるのです。
それは、原則的な理です。
“可分債権は、相続によって、相続人ごとに分割して承継される”という理です。
すなわち、従前の判例は、
①可分債権は相続によって相続人ごとに分割して承継される。
(その結果、可分債権は、遺産分割の対象にはならない)。
②預金は可分債権である。
③したがって、預金は遺産分割の対象にならない。
という「理」であったのですが、
新しい判例は、
①は変更せず、②のみを変更し、「預金は可分債権ではない」という理を立てたのです。
その結果、③で「預金は遺産分割の対象になる」という結論になったのです。
ですから、貸金債権や、損害賠償請求権などの可分債権は、遺産分割の対象にはならないのです。
前記判例変更後も、交通事故の遺族が、遺産分割をすることなく、それぞれの相続分に応じた、損害賠償請求ができるのも、この「理」によるのです。
関連するコラム
- 民法雑学 4 公立病院における診療債権、水道料金債権など自治体債権の消滅時効期間 2013-08-05
- 継続的契約の一方的な解約は許されるか? 2011-07-26
- 民法雑学 コピー1枚500円は違法 2013-11-09
- 民法雑学 農協の理事会での理事と監事の発言の差異 2014-08-05
- 民法雑学 心が傷つけられたとき 2015-01-12
コラムのテーマ一覧
- 時々のメモ
- コーポレートガバナンス改革
- 企業法務の勘所
- 宅建業法
- 法令満作
- コラム50選
- コロナ禍と企業法務
- 菊池捷男のガバナー日記
- 令和時代の相続法
- 改正相続法の解説
- 相続(その他篇)
- 相続(遺言篇)
- 相続(相続税篇)
- 相続(相続放棄篇)
- 相続(遺産分割篇)
- 相続(遺留分篇)
- 会社法講義
- イラストによる相続法
- 菊池と後藤の会社法
- 会社関係法
- 相続判例法理
- 事業の承継
- 不動産法(売買編まとめ)
- 不動産法(賃貸借編)
- マンション
- 債権法改正と契約実務
- 諺にして学ぶ法
- その他
- 遺言執行者の権限の明確化
- 公用文用語
- 法令用語
- 危機管理
- 大切にしたいもの
- 歴史と偉人と言葉
- 契約書
- 民法雑学
- 民法と税法
- 商取引
- 地方行政
- 建築
- 労働
- 離婚
- 著作権
- 不動産
- 交通事故
- 相続相談
カテゴリから記事を探す
菊池捷男プロへの
お問い合わせ
マイベストプロを見た
と言うとスムーズです
勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。