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従業員のエックス線検査受診義務違反に懲戒処分を科した判例

2017年3月28日

テーマ:労働

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 懲戒処分

Q 当社で雇用した従業員のことで相談ですが、健康診断をしようとしたところ拒否されました。理由は、エックス線検査による過去のエックス線暴露が多くこれ以上の暴露を避けたいということです。このような理由で,健康診断を拒むことができるのですか?

A 
事業者は,常時使用する労働者を雇い入れるときは健康診断を実施しなければならず(労働安全衛生法66条1項,労働安全衛生規則43条),労働者には受診義務があります(同法66条5項)。ですから、労働者は、正当な理由なくして、健康診断を拒むことはできず、これを拒むと、懲戒処分にされてもやむを得ないことになります。

最高裁平成13年4月26日判決は、下記1の事実関係の下では、下記2及び3の理由により懲戒処分(減給処分)をしたことは許されるとの判断をしました。

1 事実関係
(1)上告人は,市立中学校に教諭として勤務していた。
(2)市教委は,同中学校において,エックス線検査を実施し,同校のA校長は,教職員にこの検査をあらかじめ周知させてその受検を命じたが,上告人は,病気治療のためのエックス線検査による過去のエックス線暴露が多くこれ以上の暴露を避けたい旨の意思を表明して,これを受診しなかった。
(3)その後,公務等の都合で上記(2)のエックス線検査を受診することができなかった者を対象とするエックス線検査が実施されることになり,A校長は,上告人に対し,これを受診するよう命じたが,上告人は,同様の理由を挙げて,その受診を拒否し,A校長は,更に,上告人に対し,未受検者検診が行われる予定であるのでその受検も可能である旨通知したが,上告人はこれをも受診しなかった。
(4)A校長は,市教委とも相談の上,某日,上告人に対し,文書を交付してエックス線検査の受診を命じたが,上告人はこれにも従わなかった。
(5)市教委の学校指導室長は,某日,上告人に対し,医学的にみて受診することができない理由があるのであれば医師の証明書を提出するか,又はエックス線撮影を受診するかをし,その結果を提出するよう伝え,上告人は,いったんは医師の証明書を提出することを約したが,同証明書の提出も胸部エックス線検査の受診もしなかった。
(6)上告人は,某日,保健所でかくたん検査及び血沈検査を受け,異常なしとの結果を得て、その事実をA校長に報告した。
(7)国際放射線防護委員会(ICRP)が放射線による被ばくについて勧告していた線量当量限度(医療被ばくを除外したもの)は,昭和58年当時は1年間に5ミリシーベルト,平成2年当時は連続するどの5年間についても平均1ミリシーベルトであるところ,上記エックス線検査に使用されたと推認されるレントゲン照射装置による放射線暴露(実効線量)は0.03ミリシーベルト程度であって,上記勧告に係る線量当量限度に比較しても非常にわずかであり,この検査の被ばくによる健康被害については考慮するまでもないと考えられている。 
(8)結核の有無に関するかくたん検査は,その信頼性がそれほど高くなく,エックス線検査に代替することができるものではない。

2 市町村立中学校の設置者である市町村は,学校保健法8条1項により,毎学年定期に,学校の職員の健康診断を行わなければならず,当該健康診断においては,結核の有無をエックス線間接撮影の方法により検査するものとされている(同法10条1項,学校保健法施行規則(平成2年文部省令第1号による改正前のもの)10条1項3号,11条2項)。また,当該市町村は,結核予防法4条1項,6条,結核予防法施行令(平成4年政令第359号による改正前のもの)2条1項9号,2項2号,結核予防法施行規則(平成4年厚生省令第66号による改正前のもの)3条5号により,職員に対し,毎年度,少なくとも1回,エックス線間接撮影の方法による健康診断を行わなければならないものとされ,職員に対して学校保健法等の規定によって健康診断が行われた場合において,その健康診断が結核予防法12条の規定に基づく省令で定める技術的基準に適合するものであるときは,同法4条4項により,当該対象者に対して同条1項の規定による健康診断を行ったものとみなされる。他方,市町村立中学校の教諭その他の職員は,労働安全衛生法66条5項により,当該市町村が行う定期の健康診断を受けなければならない義務を負っているとともに,当該健康診断において行われる結核の有無に関するエックス線検査(労働安全衛生規則(平成元年労働省令第22号による改正前のもの)44条1項4号参照)については,結核予防法7条1項によっても,これを受診する義務を負うものである。ところで,学校保健法による教職員に対する定期の健康診断,中でも結核の有無に関する検査は,教職員の保健及び能率増進のためはもとより,教職員の健康が,保健上及び教育上,児童,生徒等に対し大きな影響を与えることにかんがみて実施すべきものとされている。また,結核予防法は,結核が個人的にも社会的にも害を及ぼすことを防止し,もって公共の福祉を増進することを目的とするものであり,同法による教職員に対する定期の健康診断も,教職員個人の保護に加えて,結核が社会的にも害を及ぼすものであるため,学校における集団を防衛する見地から,これを行うべきものとされているものである。
 これらによると,市町村立中学校の教諭その他の職員は,その職務を遂行するに当たって,労働安全衛生法66条5項,結核予防法7条1項の規定に従うべきであり,職務上の上司である当該中学校の校長は,当該中学校に所属する教諭その他の職員に対し,職務上の命令として,結核の有無に関するエックス線検査を受診することを命ずることができるものと解すべきである。

1 これを本件についてみると,上記事実関係によれば,上告人は,市教委が実施した定期健康診断においてエックス線検査を受診せず,A校長が職務上の命令として発したエックス線検査受診命令を拒否したというのであり,前記1(6)の事実をもって結核予防法8条,労働安全衛生法66条5項ただし書の要件を満たすものということもできないから,上告人が当時エックス線検査を行うことが相当でない身体状態ないし健康状態にあったなどの事情もうかがわれない本件においては,A校長の上記命令は適法と認められ,上告人がこれに従わなかったことは地方公務員法(平成11年法律第107号による改正前のもの)29条1項1号,2号に該当するというべきである。原審の判断は,以上と同旨をいうものとして是認することができる。論旨は,違憲をいう点を含め,独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず,採用することができない。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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