コラム
遺留分法理と類推適用
2017年3月15日
遺留分減殺請求の対象になる贈与における、贈与を受けた者すなわち受贈者が、贈与の目的を譲渡した場合は、どうなるのか?については、第1040条本文が「減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。」と規定していますので、価額弁償義務が生ずることが分かります。
しかしながら、遺留分減殺請求の対象になる遺贈については、遺贈を受けた者、すなわち受遺者が遺贈の目的を譲渡した場合については、どうなるのか?というと規定はありません。
規定はありませんが、受遺者が、遺贈の目的を譲渡した場合も、同じく、価額弁償をさせないと平仄が合いません。
そこで、判例(最高裁判平成10年3月10日判決)は、「遺留分権利者が減殺請求権を行使するよりも前に減殺を受けるべき受遺者が遺贈の目的を他人に譲り渡した場合には、民法1040条1項の類推適用により、・・・遺留分権利者は受遺者に対してその価額の弁償を請求し得るにとどまるものと解すべきである(最高裁昭和57年3月4日判決参照)。」と判示して、民法1040条の類推適用をしています(他に最判平11.12.16も)。
このような法の類推適用は、結構多くなされています。
遺留分減殺請求の対象になるのは、民法第1031条の「遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。」の規定により、「遺贈」と「贈与」になっていますが、ここでいう「遺贈」は、遺言による遺産の処分一般を意味しますので、法的な意味の遺贈だけでなく、相続人への「遺産分割方法の指定」(最判平11.12.16)も「相続分の指定」(最判平24.1.26)も含まれますが、これも厳密には、民法1031条の類推適用によるものです。
法律は、同じ性格のもので、その一つについて、何らかの規定を定めても、他のものについては規定を定めないということが、よくあります。
その場合は、規定のないものについては、特に差を設ける必要がない場合、規定のある条文の類推適用をすることがあるのです。
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