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コラム

自筆証書遺言法理① 「自書」の意味と限界

2017年2月6日

テーマ:相続判例法理

コラムカテゴリ:法律関連

民法968条が
「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と規定しているように
自筆証書遺言の要件は、遺言者が、
⑴その全文、日付及び氏名を自書し、
⑵印を押すことです。

⑴ 自書
「自書」とは、遺言者自らが書くことです。
Q 添え手による補助は許されるか?
A 許されますが、次の判例がその意味と限界を判示しております。

最高裁昭和62年10月8日判決
 自書が要件とされるのは、筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるからにほかならない。
そして、自筆証書遺言は、他の方式の遺言と異なり証人や立会人の立会を要しないなど、最も簡易な方式の遺言であるが、それだけに偽造、変造の危険が最も大きく、遺言者の真意に出たものであるか否かをめぐって紛争の生じやすい遺言方式であるといえるから、自筆証書遺言の本質的要件ともいうべき「自書」の要件については厳格な解釈を必要とするのである。
「自書」を要件とする前記のような法の趣旨に照らすと、病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、
 (1)遺言者が証書作成時に自書能力を有し、
 (2)他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、
 (3)添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、「自書」の要件を充たすものとして、有効であると解するのが相当である。 
 ・・・本件遺言書には、書き直した字、歪んだ字等が一部にみられるが、一部には草書風の達筆な字もみられ、便箋四枚に概ね整った字で本文が22行にわたって整然と書かれており、前記のような太郎の筆記能力を考慮すると、花子が太郎の手の震えを止めるため背後から太郎の手の甲を上から握って支えをしただけでは、到底本件遺言書のような字を書くことはできず、太郎も手を動かしたにせよ、花子が太郎の声を聞きつつこれに従って積極的に手を誘導し、花子の整然と字を書こうとする意思に基づき本件遺言書が作成されたものであり、本件遺言書は前記(2)の要件を欠き無効である・・・。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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