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「相続させる」遺言法理⑤ 「相続させる」遺言執行者は、平時に用なく、乱時に用あり

菊池捷男

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テーマ:相続判例法理

1 遺言執行者は、平時に用なし
 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」遺言は、香川判決(最高裁平成3年4月19日判決)により、特段の事情のない限り、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に、直ちに、当該遺産が当該相続人に承継されることになった結果、遺言執行者は、当該遺産を管理する義務や、これを相続人に引き渡す義務を負わず(最高裁平成10年2月27日判決)、遺言の執行として、相続の登記手続をする義務も負いません(最高裁平7年1月24日判決)。
ただ、これは、遺言書の実現を妨害する者がいない、平和時の法理です。

2 乱時に用あり
 遺言執行者は、遺言の内容の実現という、使命が与えられている存在です。
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」遺言であるからといって、遺言執行者に出番がないというのでは、遺言執行者を置く意味はありません。
 はたして、その後、下記判例が出て、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」遺言における遺言執行者は、当該遺産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化しないが、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行の一環として、妨害を排除するための措置を執ることができる、という法理を明らかにしました。

参照:
最高裁判所第一小法廷平成平成11年12月16日判決
① 特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)は、特段の事情がない限り、当該不動産を甲をして単独で相続させる遺産分割方法の指定の性質を有するものであり、これにより何らの行為を要することなく被相続人の死亡の時に直ちに当該不動産が甲に相続により承継されるものと解される(香川判決参照)。
② しかしながら、相続させる遺言が右のような即時の権利移転の効力を有するからといって、当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要になるというものではない。
③ ・・・甲に当該不動産の所有権移転登記を取得させることは、民法1012条1項にいう「遺言の執行に必要な行為」に当たり、遺言執行者の職務権限に属するものと解するのが相当である。
④ もっとも、登記実務上、相続させる遺言については不動産登記法27条により甲が単独で登記申請をすることができるとされているから、当該不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない(最高裁平成7年1月24日第三小法廷判決参照)。
⑤ しかし、本件のように、甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、右の妨害を排除するため、右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当である。
⑥ この場合には、甲において自ら当該不動産の所有権に基づき同様の登記手続請求をすることができるが、このことは遺言執行者の右職務権限に影響を及ぼすものではない。

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