遺留分法理③ 遺贈(ここでは相続分の指定)+贈与により侵害された遺留分額の計算法理
香川判決の法理を更に進めますと、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」遺言における遺言執行者には、当該遺産を管理する義務も、当該遺産を受遺相続人に引き渡す義務もないことになります。
また、当該遺産を巡る紛争が生じた場合、遺言執行者はその当事者にはなりえず、受遺相続人が当事者になることになります。
はたして、その後、下記の判例が出、遺言執行者には、「相続させる」遺言の対象になった遺産(判例事案では不動産だが、これに限られるものではない。)については、管理義務や引渡し義務のないことが明らかにされました。
下記の判例がその理を明らかにしています。
最高裁判所第二小法廷平成10年2月27日判決
特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言をした遺言者の意思は、右の相続人に相続開始と同時に遺産分割手続を経ることなく当該不動産の所有権を取得させることにあるから(最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決参照)、その占有、管理についても、右の相続人が相続開始時から所有権に基づき自らこれを行うことを期待しているのが通常であると考えられ、右の趣旨の遺言がされた場合においては、遺言執行者があるときでも、遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り、遺言執行者は、当該不動産を管理する義務や、これを相続人に引き渡す義務を負わないと解される。そうすると、遺言執行者があるときであっても、遺言によって特定の相続人に相続させるものとされた特定の不動産についての賃借権確認請求訴訟の被告適格を有する者は、右特段の事情のない限り、遺言執行者ではなく、右の相続人であるというべきである。
ここまでの三つの最高裁判決(判例)では、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」遺言は、遺言執行者の関与なくして、直接、当該遺産が当該受遺相続人に移転することになり、遺言執行者がいても、遺言執行者にはなにもするところはない、ことになりますが、では、「相続させる」遺言における遺言執行者には、なんらの権利も義務もないのか?