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損害の発生後45年が経過して行使された損害賠償請求権が,消滅時効にかかっていないとされた裁判例

菊池捷男

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テーマ:民法雑学

 45年前,新生児が誕生しましたが,母親の退院時,病院のミスで,新生児が取り替えられるという事故がありました。それから45年後,血液型の不一致から,親子関係に疑問が持たれ,DNA鑑定を受けたところ,真実の親子関係にはないという事実が判明したのですが,間もなくして,両親と信じ込んできた夫婦と,子と信じ込んできた45年前の新生児から,産院に対し損害賠償請求訴訟が提起されました。
 産院は,ミスを認めたものの,損害賠償請求権は時効によって消滅していると主張しましたが,東京高等裁判所平成18年10月12日判決は,
①産院と分娩した母親との間には,妊婦が懐胎した胎児を安全に分娩することを助け、生まれた新生児を看護する契約(出産した新生児を他の新生児と取り違えることなくその両親に引き渡すという債務を含む。)分娩助産契約が結ばれた。
➁債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、「権利を行使することができる時から進行する」(民法166条1項)ものとされ、10年間これを行使しない場合に時効消滅する(民法167条1項)が,
③「権利を行使することができる時」とは,「単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけではなく、さらに権利の性質上、その権利行使が現実に期待できるものであることをも必要であるところ,
④ 新生児の取り違えという事実は外観上は非常に分かりにくく、これによる損害の発生が潜在化しているといえる(が)・・・子の取り違えの事実を知ることのできる客観的な事情が生ずるまでは,権利行使を期待することはできないので,
⑤血液型の相違を知るなどの客観的事情が生じた後でないと「権利を行使することができる」状態とはいえない。
⑥そして,分娩後45年が経過した後ではあるが、血液型の相違から親子関係がないことが分かった時点から,損害賠償請求権の時効は進行するが,
⑦この事件では消滅時効は完成していないとして,総額2000万円の損害賠償請求を認めました。

なお,この判決は,消滅時効の進行開始時点を,DNA鑑定の結果を知らされた日ではなく,それより前の血液型の判定結果の分かった日としております。
いずれにせよ,その日から10年経過するまでに損害賠償請求訴訟を起こしたこの事件では,債権は消滅時効にかかっていないと判断されたのです。

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菊池捷男(弁護士)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

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