事業の承継9 経営の才は、経綸の才に通ず
一つの会社の経営者が,二人の子甲及び乙に会社を承継させたい。少なくとも,甲に会社を承継させても,乙にも会社の取締役にして役員報酬を受け取らせたいなどの希望をかなえる方策
1 会社の分割
一つの会社を二つに分割し,一つを甲に,一つを乙に経営させることです。
2 定款による株主の属人的定め
非公開会社の場合,定款で定めれば、①配当、➁残余財産分配請求権、③議決権の3つについて、株主ごとに異なる取扱いができますので,これを利用する方法があります。
これは「定款による株主の属人的定め」といわれ,これを株式とみたてて「VIP株の発行」ともいわれています。
なお,注意すべき点ですが,乙を取締役の身分に置き,しかも一定の役員報酬を得させるという株主の属人的定めはできません。属人的定めは,①株主への配当。➁会社解散時の残余財産分配請求権,③議決権の行使についてだけです。
① 配当についていえば,例えば,株主乙については,議決権は行使できないが毎期一定額の配当をするという規定を設けるなどです。この場合,利益配当は配当できるだけの利益(分配可能額)がないとできませんので,当該事業年度で規定に定めた配当ができないときは,配当不足額は翌事業年度に支払うという規定(累積条項)も定めておくこともできます。
➁ 残余財産分配請求権で差をつける規定を置くこともできますが,これは会社解散の場合に効果が生ずるものですので,あまり実効的な規定とはいえません。
③ 議決権に関する属人的定めとしては、乙に1人の取締役を選任する議決権を与える規定を置くことが考えられます。これがあれば,乙は常に取締役であり続けることができます。
しかしながら,この属人的扱いは,取締役になれても常勤になれる保証はありません。これは取締役会の決議に任されることになるからです。
また,役員報酬は株主総会決議に従うことから,期待に反して報酬が十分に得られないという場合も生じます。
3 種類株式の発行
例えば,取得請求権付株式の発行
取得請求権付株式とは、株主が会社に対して,自己が保有する株式の買い取りを請求できる権利がついた株式のことです。定款を変更することで種類株式を発行することは可能です。
会社の経営権を握れない株主(乙)のために,会社から一定の金銭を支払わせて,経済的利益を得させようとする株式です。その権利を行使すると,株主ではなくなりますが。