クイーン・エリザベス号乗船記⑤ 食事
「モンテ」は「山」の意味。「クリスト」は「キリストの意味。「モンテ・クリスト」とは「キリストの山」の意味です。
「モンテ・クリスト伯」は,キリスト教の「神の愛」とその「神が嘉(よみ)したまう復讐」をテーマに書かれた小説です。
「愛」と「復讐」という一見両立しえない命題を,一人の人間,エドモン・ダンテス(モンテ・クリスト伯)が体現していくのです。
エドモン・ダンテスに濡れ衣を着せ,彼を地中海の孤島にある牢獄に送り込んだ三人の卑劣漢。
ダンテスから許嫁を奪うため誣告に走ったフェルナン。
妬みと犯罪の隠蔽とダンテスの地位を奪うためにフェルナンを使嗾したダングラール。
保身と父を助けることを目的に,自分たち親子に不利になる証拠を隠滅した上でダンテスから裁判を受ける権利すら奪ってダンテスを牢獄に送り込んだ検事代理のヴィルフォール。
この三人が復讐の対象になるのですが,面白いことには,この三人は,それぞれの形で,その後も,白日の下ではできないようなことをし,しかし,それでいて,社会的には成功し,栄達しながら(フェルナンは伯爵。ダングラールは銀行家。ヴィルフォールは検事総長),しかし,ついには,過去の悪因ゆえに,自滅していくのです。
モンテ・クリストのする復讐も,悪をするのはなく,悪を暴くという形になっているのです。
例えば,フェルナンの場合,彼は自らが仕えるギリシアのジャニナ地方の太守アリ・パシャを裏切り,殺害し,その娘を奴隷にして売るなどをしています。しかし,真相を知らない国(フランス)は,フェルナンに伯爵という爵位を与えるのです。しかし,その後,フェルナンに殺された太守アリ・パシャの娘エデは,偶然ダンテスに助けられ,その庇護の下で生活していたのですが,そのような中で,エデが,フランスの貴族院でフェルナンの裏切りを証言し,それによってフェルナンは自殺します。いわば,フェルナンは,身から出た錆によって自滅したのです。
モンテ・クリスト伯は,一方で,善に対しては善でもって報います。
ダンテスの雇主であり,投獄されたダンテスを救おうと種々努力をし,ダンテスの父にまで温かい手をさしのべていた船主であるピエール・モレルに対しては,彼が,ダンテスを助けようとしたために,ダンテス同様のボナパルティストと見なされて辛酸を嘗め,会社の経営が傾き、最後に残った船舶ファラオン号まで沈没して破産に追い込まれ,拳銃自殺を遂げようとした寸前に,助けるのです。
借金はすべて肩代わりをし,沈没したファラオン号とそっくりの船舶を作って,そこに沈没で失った商品と同じ商品を積み込み,それまで働いていテモレルを慕う船長船員全員を雇い入れ,彼らが操船するその船舶をファラオン号と名を付け,あたかも,沈没したファラオン号が沈没もせず,マルセイユ港へ帰港を果たしたという演出して,その船舶も積み荷も,船長以下の船乗り達も,モレルに贈ったのです。
小説モンテ・クリストには,善意に対しては善意で酬い,悪意に対しては,無論その程度によりますが,復讐も許されるという思想が見られます。
作中で,
しかしながら,モンテ・クリスとのする復讐劇の過程には,罪もない者にも被害が出るという場面もありました。
もっとも,その被害者は,モンテスの復讐劇の犠牲者ではありません。
被害者を殺したのは,家庭の乱れを招いたヴィルフォールが,殺人を犯した妻を自殺の追いやる過程で,妻が幼い子を道連れにしたことなのです。
しかし,そのためか,モンテ・クリスト伯は,我が身に起こった出来事の元凶たるダングラールが,破産し,家族からも見放さヴィルフォールれ,無一文になるところまでを見て,最後には,ダングラールにお金を与え,許すのです。