軽い認知症を患っている母の,財産の管理と相続をする相談
相談内容
夫婦の間に子がいないので,全遺産を妻に相続させたい。その方法は?
特に私の場合,弟と姪(妹の子)が,私の死後,妻に対し,遺産を要求してきそうなので,それができないように処置したい。その方法は?
第2 回答
STEP1
最初に,次のような遺言書を作成することです。
遺言書
私は,全財産を妻凸山一子に相続させる。
平成28年4月5日
凸山太郎 ㊞
これは自筆証書遺言です。①全文自筆で書き,➁日付けも自筆で書き,③署名をし,④印鑑を押せば,成立します。
公正証書で作成することもできます。この場合は2名の証人が必要になります。
自筆証書は紛失の危険がありますが,公正証書の場合は,公証人役場で原本が保存されますので,紛失のリスクはありません。また,相続人なら誰でも,どこの公証人役場からでも調査が可能ですので,公正証書で作成することをお薦めします。
STEP2
次にあなたが亡くなった後,奥様から家庭裁判所に,遺言書の検認を求める申立てをしてもらい,家庭裁判所から遺言書の検認してもらいます。
遺言書が公正証書で作成されている場合は,この検認手続は不要です。
STEP3
その検認済みの遺言書又は公正証書による遺言書で,不動産や預貯金の名義をあなたから奥様に移転する手続をとります。
上記のような,相続人に「相続させる」と書いた遺言書の場合は,相続人自らが単独で,不動産や預貯金の名義を,遺言者(被相続人)から,当該相続人(これを「受遺相続人」といいます。)に移転することができますので,遺言執行者は必要ではありません。
第3 遺言書を書く必要
1 推定相続人(相続が開始した時に相続人になる立場の人)
あなたが亡くなった時に相続人になる人のことを「推定相続人」と言いますが,あなたの場合, 凸山一子(妻),凸山 登(弟),凹川鮎子(妹鮒子の子・代襲相続人姪)
の3名が推定相続人になります。
2 法定相続分(凸山太郎が遺言書を書かないで死亡した場合)
もし遺言書を書かない場合は,あなたの遺産は,次のような割合で3名の相続人に相続されます。そして,遺産を分けるためには,遺産分割(協議,調停,審判の順に)をする必要があります。これには,時間と費用と労力がかかります。その上,相続税の納期(相続開始後10か月目)までに遺産分割ができていない場合は,相続税の配偶者控除が認められないことになります。
凸山一子 3/4
凸山 登 1/8
凹川鮎子 1/8
3 遺言書の効果
前述の遺言書を書いておくと,遺産は全部奥様が相続しますので,弟さんや姪御さんには遺産は移転することはありません。遺産分割の必要はなく,相続税の申告も一人でできますので,納期も守れ,配偶者控除を受けることが可能です。
4 遺留分権利者
兄弟姉妹(代襲相続人となる甥・姪を含む。)には遺留分がありません(民法1028条)ので,あなたの死後,弟さんや姪御さんから奥様に遺留分減殺請求の請求を受けることはありません。あなたの遺産は全部,奥様に移転し,だれも妨害できません。
5 遺言書の効果は抜群
上記のような遺言書を作成するだけで,なんら手間暇かけることなく,あなたの遺産はすべて,奥様に移転し,事後的にも,誰も何の請求もできません。