コラム
契約書は,紛争の予防に役立っているのか?① 国と東芝との間の戦闘機映像装置製造契約に関する判決
2016年3月21日 公開 / 2016年3月22日更新
表題のテーマとして掲げた疑問は,下記事件を契機に,問題として取り上げたものですが,下記事件における国と東芝間の契約書が役に立っていない,というものではありません。念のため。
1 F15戦闘機映像装置製造契約に関する判決
マスコミ報道によりますと、平成28年3月18日、東京地方裁判所は、国と東芝との間で生じた、飛行中のF15戦闘機から地上に映像を送る装置の製造の遅れが、国の責任によるものか、東芝の責任によるものか、が争われた訴訟で、国を勝訴させる判決を言い渡したということです。
この訴訟では、国も東芝も、装置製造が契約で定めた期限に遅れたことは、ともに認めたのですが、東芝は、その責任は国の「不当な要求」(マスコミの言葉。筆者註:契約に定めのない要求の意味かと思います。)が原因で生じたもの、と主張し、国に対し123億円余りを請求したが、逆に,国は、「東芝の製造した装置は、契約当初に合意した条件を満たさないもので、納入できなかった責任は東芝にある。国には東芝の装置に合わせて仕様を変更する義務はない」(マスコミに書かれた文)と主張し、損害賠償の請求をしていたようでした。
判決は、国の主張を認め、東芝に12億円余りの支払いを命じたということです。
2 疑問
この事件では、F15戦闘機映像装置製造に関する契約書の内容は、一義的に明確ではなかったのか?という疑問が生じます。
国も、東芝も、契約書の作成には、その道の専門家の智恵を借り、充分に意を尽くして、東芝のなすべきこと、国のなすべきことを、言葉を駆使して文にしたと思えるのに、お互いが、自己に契約不履行はなく、相手方に契約不履行があったと考えて、双方とも訴訟を起こしたというのですから、要は、契約書の中身が、一義的に明確とはいえなかったということでしょう。
3 実務では、このようなトラブルは無数にあること
実は、契約実務の世界では、このようなトラブルは無数にあるのです。
① 契約書のない業務委託契約
② タイトルだけで,内容が書かれていないに等しい,業務請負契約書
③ 報酬として、1000万円も2000万円も支払う契約でありながら、報酬の対価が何かが分からない契約書
等々が、無数にあるのです。
これらの契約書は、内容が、一義的に明確とはいえず、そのため、委託者は、受託者の仕事ぶりを怠慢(債務不履行)と考え、業を煮やして、契約を解除し、その時点までに支払った金銭の返還を請求する。一方、受託者は、逆に、委託者が契約外の不当な要求を繰り返すために、納期が遅れたもので、その契約が履行できなかった責任は、挙げて委託者にあるとして、損害賠償の請求をする。という争いに発展するのです。
私は、このような契約実務の現状、から生ずる紛争を、私の顧客には、経験してほしくないと考え、契約書の中身に、種々の工夫を凝らそうとするのですが、これを機に、私の愚考するところを、暫くの間,このコラムで書いてみたいと思います。
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