民法と税法 低額譲渡の基準となる「時価の2分の1未満の価額」の射程範囲
Q 私は,事業に行き詰まり自己破産の申立てをしようと考えています。その際,担保の入っている,親から相続した土地建物を売却して,被告担保債務を支払った後の残金は破産予納金や弁護士報酬に当てるつもりです。この場合,不動産譲渡所得税はかかるのですか?
A
次の①の使途にあてる金額は非課税所得になりますが,➁は課税所得になります。
① 不動産の売却代金を被担保債務の支払に充てる部分
➁ 破産予納金や弁護士報酬に充てる部分
理由
1 所得税法第9条は,非課税所得を定めた規定です。
その1項10号に「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合における・・・強制換価手続による資産の譲渡による所得その他これに類するものとして政令で定める所得・・・」は非課税所得になると定めています。
要は,破産になるほどの人は,競売されたり,それに類することをして不動産を売っても,政令で定められた金額は,課税所得にしないという規定です。
2 この10号でいう「政令に定める所得」というのは,所得税法施行令26条の「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であり、かつ、・・・強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合における資産の譲渡による所得で、その譲渡に係る対価が当該債務の弁済に充てられたもの」のことです。
要は,不動産を換価して得た金額で,債務の弁済にあてたものは,非課税所得になるという規定です。
3 また,この10号でいう「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」である場合の意義として,所得税法基本通達9-12の2は「・・・債務者の債務超過の状態が著しく、その者の信用、才能等を活用しても、現にその債務の全部を弁済するための資金を調達することができないのみならず、近い将来においても調達することができないと認められる場合」をのことですので,あなたの場合は,これに該当します。
4 結論
ですから,あなたの場合,①の被担保債務の弁済だけにとどまらず,それ以外のあなたの債務の弁済に充てる金額については非課税所得になりますが,➁の破産予納金や弁護士報酬に充てる部分は,施行令26条でいう「その譲渡に係る対価が当該債務の弁済に充てられたもの」には該当しないため,その部分は課税所得になります。
5 立証資料
なお,あなたの場合,任意での売買を考えられているようですので,施行令26条でいう「強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合における資産の譲渡」であることの立証責任はあります。
担保権者が,競売の予告をしているような場合は,その立証だけで十分です。