債権法改正 大改正。債権の原則的な消滅時効期間は5年になる。短期はなし
本コラムは,本年2月に公表された債権法改正要綱案を前提にしています。
要綱案は,その後,本年3月31日に債権法改正案になって国会に上程され,現在審議中です。
要綱案と改正案では,実質的な違いはありませんが,部分的には,用語や表現が違うところがあります。
いずれ,本コラムは,法律改正がなされた後で,正しい条文を紹介した上で,補足させていただく予定です。
それまでの間,要綱案の説明で,ご容赦ください。
(1)裁判上の請求等
改正法
ア 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
(ア) 裁判上の請求
(イ) 支払督促
(ウ) 民事訴訟法(平成8年法律第109号)第275条第1項の和解又は民事調停法(昭和26年法律第222号)若しくは家事事件手続法(平成23年法律第52号)による調停
(エ) 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
イ アの場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、アの(ア)から(エ)までに掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
コメント
アについて,
裁判上の請求等は時効中断事由になるが、取下げ等により手続が終了した場合はどうなるのかは明確でない。そこで,改正法は,判例法理に従い、取下げ等により手続が終了したとしても、初めから裁判上の請求がなかったものとは扱わず、裁判上の請求等の時に催告としての効果を認め、手続終了時から6か月以内に改めて裁判上の請求等をすれば時効は中断することにしたもの。
イについて
裁判等により確定した権利の消滅時効期間は、現行法のとおり、確定の時から改めて進行することを明記したものである。
したがって,訴えの提起の時に時効が中断し,1年後判決が確定したとすれば,その間1年間は時効は進行せず,1年後判決が確定した時から新たに時効が進行する,ということになる。
(2)強制執行等
ア 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
(ア) 強制執行
(イ) 担保権の実行
(ウ) 民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
(エ) 民事執行法第196条に規定する財産開示手続
イ アの場合には、時効は、アの(ア)から(エ)までに掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。
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強制執行等は、裁判上の請求等とは違って、確定(権利の確定)という観念が入る余地はない。したがって、強制執行等についての新たな時効期間の進行は、取下げ等の括弧内の場合を除いては、手続終了時から始まることを明記したもの。
(3)仮差押え等
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
ア 仮差押え
イ 仮処分
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現行法の停止と同様の効果を規定したもの。
(4) 強制執行等及び仮差押え等による時効の完成猶予及び更新の効力
(2)アの(ア)から(エ)まで又は(3)のア若しくはイに掲げる事由に係る手続は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、(2)ア又は(3)の規定による時効の完成猶予又は更新の効力を生じない。
(5) 承認
ア 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
イ アの承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
コメント
現行法と同じである。
承認自体が、時効中断事由になるのである。
(6) 催告
ア 催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
イ 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、アの規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
コメント
アの意味
催告はそれ自体で時効は中断しない。6か月以内に改めて裁判上の請求等をしなければならないのである。
イの意味
催告を繰り返しても、効果がないということを注意的に規定したもの(一般の人に誤解が多いところ)
(7) 天災等による時効の完成猶予
時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため(1)アの(ア)から(エ)まで又は(2)アの(ア)から(エ)までに掲げる事由に係る手続を行うことができないときは、その障害が消滅した時から3箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
コメント
現行法は2週間とされているものを、3箇月としたもの。