相続税のお話し 7 代償分割に潜む落とし穴
1,遺言書が包括遺贈の場合
遺贈は、遺言執行者が執行しなければなりません。
したがって、「私甲は、全財産を乙に遺贈する。」というような、財産全部の包括遺贈の場合であると、「私は、財産の3分の1を甲に遺贈する。」というような、財産の一部の包括遺贈であるとを問わず、遺言者の全財産が、遺言執行の対象になる場合(財産の一部の包括遺贈も全財産に対する一定割合の包括遺贈ですので,全財産が対象になります。)は、遺言執行者には、第1011条1項により、相続財産目録を作成し、遅滞なく、全相続人に相続財産目録を交付する義務があります。この義務は「相続財産目録の調整義務」ともいわれます。
参照:
民法1011条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2,遺言書が特定遺贈の場合
遺言書が「私甲は、自動車(登録番号 岡山 ・・・-・・・・)を弟の乙に遺贈する。」というような、特定遺贈の場合は、遺言執行者は、民法1014条により、その自動車についてのみ、相続財産目録を作成し、これを全相続人に交付する義務があります。
参照:
民法1014条 前3条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
3,何のための相続財産目録調整義務か
遺言執行者の相続財産目録調整義務は,遺言執行者制度を実効あらしめるための義務です。すなわち,この義務は,遺言執行者が遺言執行するため(民法1012条)の義務なのです。
相続財産目録を相続人に交付するのは,相続人に遺言執行者の遺言執行を妨害させないため(民法1013条)に設けられた規定なのです。
ですから,遺言執行者の相続財産目録調整義務は,遺言執行者が遺言執行するために管理する財産に限定されるのです。それが,民法1014条の規定の趣旨なのです(新注釈民法(28)補訂版328頁以下及び358頁以下)。
参照:
民法1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
民法1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
なお,遺言執行者の相続財産目録調整(作成及び相続人への交付)義務については,弁護士の中にも,相当の誤解がありますので,も少し触れておきますと,遺言者が,遺言書の中に,「私甲は、自動車(登録番号 岡山 ・・・-・・・・)を弟の乙に遺贈する。」と書いた場合,はたして甲は,遺言執行者が甲の財産全部を調査した上で,全相続財産目録を作成して,これを相続人に交付することを望むでしょうか?遺言者によっては,自動車を遺贈するだけが役目の遺言執行者が,遺言者の全財産を調査し,財産目録ヲ作成する権利や義務があると誤解すると,遺言執行者を指定すること自体躊躇するかもしれません。また,遺言執行者になった者も,そのような手間をかけなければならないと誤解すると,遺言執行者になること自体敬遠するかもしれません。
正解は,遺言執行者は,遺言執行の対象になる財産についてのみ,相続財産目録の調整義務を負うのです。