権利とは消えるインクで書かれた約束事
弱き者よ,汝の名は女なり,というは,むかし昔のこと。今は,違う。強き者よ,汝の名は女なりだ。
ここに強い女がいた。いや,賢い女性がいた。
この女性,夫と離婚することになった。しかし,夫婦の間には清算すべき財産はない。マンションはあるが住宅ローンありだ。しかもローン債務の方がマンションの時価より高いオーバーロンの状態だ。しかもである。そのマンションは夫名義であるので,離婚後も,夫がローンの支払を続けていくことになるのだ。だから,妻には,そのマンションをもらう権利もなければ,そこを使う権利もない。
さあ,困った。そこで,この賢い女性は考えた。扶養的財産分与として,このマンションに住む権利の設定を,裁判所に求めようと。
裁判所の門をたたいて,切なる願いを訴えたのだ。門をたたけ,さらば,開かれん,を信じて。
それを受けて,名古屋高等裁判所平成18年5月31日決定(即時抗告審での裁判)は,
①夫婦が離婚した後の生活は,各自の経済力に応じてするのが原則である。
➁妻又は夫は,他方に対し,離婚後の生活を,婚姻中と同程度のものとすることを求める権利はない。
③されど,一方に豊かな生活が保障された夫又は妻がおり,他方に困窮するおそれのある妻又は夫がいれば,豊かな生活を保障された者は,豊ならざる者の生計の維持のため一定の援助ないし扶養をすべき義務がある。
と,門を開いたのだ。
そして,この決定は,離婚後の妻の収入を計算し,また,夫の収入を計算し,さらに妻が未成年の子を抱えていることにも思いやり,夫から妻に子の養育費を支払っていくことも念頭に置きながら,夫に対し,妻が未成年の子を養育する間は,家賃なしで夫所有のマンションに住まわせてやれと命じたのである。
門をたたけ。さらば,開かれむ。が実現したのだ。
かくて,弱き者は男になり,強き者は女になった。そう,時代を経て,ハムレットの名句のうち,女という文字が,男という文字に変わったのだ。
ここに教訓あり。
弱き者よ,汝の名は男なり。よって,夫たるもの,安易に離婚をするなかれ。
そのためには,女房殿の言を唯々と聞き,諾々と従うことだ。
ただし,男児たるもの,雌鶏(めんどり)歌えば家滅ぶという諺もある。
決して,雌鶏(めんどり)につつかれて,雄鳥(おんどり)時ならぬ時に時を告げる愚を犯すなかれではあるぞよ。
さあ~。そうなると,夫婦のこと,本当のところは,よくワカラネ~。