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契約書 期限の利益喪失約款を書き忘れた場合は解除で対応

2014年10月29日 公開 / 2022年9月14日更新

テーマ:契約書

コラムカテゴリ:法律関連

Q 当社(甲社)では,取引先(乙社)に対する売掛金100万円について,これを毎月末日限り,5万円ずつ20回に分けて支払ってもらう契約を結びましたが,これに期限の利益喪失約款を付けるのを忘れました。
 この場合,取引先が分割債務の支払の途中で1回分,支払を怠ったとき,当社は,残額を一度に請求することはできないのですか?

A そのままではできません。
取引先(乙社)の分割債務1回分の支払義務の不履行を理由に,契約を解除できれば,残額を一時に請求できます。

【解説】
1,期限の利益喪失約款の効果
 期限の利益とは,債務の弁済を,今するのではなく,将来にする,つまり,弁済の期限を,猶予してもらう利益をいいます。
 例えば,今100万円を支払う義務を,来月から毎月末日限り20万円ずつ支払うというように,期限の猶予を与えてもらうことをいいます。言葉を換えてい言えば,期限の利益とは,期限の猶予のことなのです。
 ところで,通常,今支払うべき金額を小口にして,将来分割して支払うことにしてもらう場合(つまり期限の利益を与えられる場合)は,1回又は数回分割金の支払を怠ったときは,残額を一時に支払うという,期限の喪失約款を付けます。
 これを条文にして表せば,
   第1条 乙は甲に対し,平成26年10月から平成28年8月までの間,毎月末日限り5万円あて,持参
       又は送金して支払う。
   第2条 乙が前条の分割債務を一回でも怠ったときは,期限の利益を喪失し,残額を一時に支払わな
       ければならない。
というような条文です。
 この場合,乙は一回でも分割債務の支払を遅滞したときは,その時点の債務全額を一時に(すぐに)支払わなければなりません。
 例えば,第1条の分割債務を3回支払った後,4回目の平成27年1月31日支払分の支払を怠ったときは,第2条により,期限の利益を喪失し,その時点の残額である85万円を一時に支払わなければならないのです。

2,契約書で,期限の喪失約款を付け忘れた場合
 この場合は,乙が分割債務の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはありません。
ですから,この場合で,乙が第1条の分割債務を3回支払った後4回目の平成27年1月31日支払分の支払を怠ったときは,甲は乙に対して平成27年1月31日支払分5万円だけしか請求できません。

3,残額を一時に支払うよう請求するためには
 それを,甲が,乙に対し,残額85万円を一時に支払うよう,請求できるようにするには,期限の利益を与えた契約を,契約違反を理由に解除することが必要です。
 すなわち,乙は,示談書で,100万円の債務を20回に分割して支払うという債務を負っているのですが,その4回目の5万円の支払を怠りました。そこで,甲は,その支払を督促して,一定期間までにその5万円の支払をしないときは,示談契約を解除するという意思表示をするのです。
 そして,これに対し,乙が4回目の支払分5万円の支払を怠ったとき,甲は乙に対し契約を解除することができることになります。そうすると,それ以後,残額85万円を一時に支払うよう請求ができることになります。
 しかし,乙が,督促に応じて,債務不履行に陥った平成27年1月31日支払分の5万円を支払ったときは,甲は,示談を解除することはできません。

期限の喪失約款を付けることを忘れる,ということは意外に多いので,注意を要します。

『補説』
2022年9月14日に、本コラム記事に関して、他県の弁護士から次の質問があり回答いたしましたので、書いておきます。

質問:無償片務契約の場合でも、債務者が債務不履行をしたときは、法定解除ができるのか?
私の回答:
①民法541条の法定解除に関する規定には、無償片務契約の場合は解除できないとの文言はないこと。
②新版注釈民法(13)の808ページ最下行の3行上から2行上にかけての記述「(法定解除権は)有償双務契約における債務不履行による場合以外においても認められることになる。」との記述があること。
の2点から、解除の利益がある限り、債務不履行解除は可能。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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