コラム
公用文の書き方 9 漢字で書くか平仮名で書くかの具体論は,まずは常用漢字表を見るべし
2014年9月10日 公開 / 2014年9月12日更新
言葉を,漢字で書くか平仮名で書くかは,「常用漢字表」(内閣告示第2号)が教えてくれています。すなわち,常用漢字表は,本表で,字種2、136字を掲げ,音訓(2352の音字・2036の訓字)及び語例を示していますが,この音訓表の本表に「読み」が掲げられていない漢字は,その「読み」では,書くことができません(少なくとも公用文では)。その場合は,平仮名で書かなければならないのです。
具体例を挙げてみます。ここで×印をつけた字句は,使えません。その理由は括弧書にしています。正しくは,平仮名で書くことになります。
× 予め → ○あらかじめ
(理由)常用漢字表の「予」の読みは音字の「ヨ」しかなく,訓字は掲げられていない。したがって,当然「あらかじめ」という「読み」はない。
× 未だに → ○いまだに
(理由)常用漢字表の「未」の音訓欄には音字の「ミ」しかなく,訓字はない。したがって,「いまだに」という「読み」はない。
× 概ね → ○おおむね
(理由)常用漢字表の「概」の読みは音字の「ガイ」しかなく,訓字は掲げられていない。したがって,「おおむね」という「読み」はできない。
「とどめる」と読む場合は,
× 留める ×止める → とどめる
「とめる」と読む場合は,
○ 留める ○止める
(理由)常用漢字表の「留」の訓読みは「とめる」と「とまる」であり,「とどめる」はない。常用漢字表の「止」の訓読みも「とめる」と「とまる」であり,「とどめる」はない。
「留める」「止める」を「とめる」と読む場合は,「留める」「止める」と書くことになるが,「とどめる」と読む場合は,平仮名で「とどめる」と書くほかはない。
なお,常用漢字表では,「留」には,音字に「リュウ」と「ル」の2つがあります。前者の用例として「留意」「留学」「保留」が,後者の用例として「留守」が掲げられています。しかし「留」には「とどまる」という訓字はないため,「留学」と書かず「学校にとどまった」と書くときの「とどまる」は,平仮名で書かねばなりません。
以上は,常用漢字表搭載の漢字に「読み」が書かれていない場合の例ですが,反対に,音訓表に「読み」が掲げられている漢字は,名詞,動詞,形容詞の場合,原則として,平仮名で書くことはできません(少なくとも,公用文では)。ただし,それは,漢字が,原則として,名詞,形容詞,動詞,副詞として用いられる場合に限ります。漢字を,形式名詞,補助動詞,補助形容詞,助詞,助動詞として用いることはできません。この場合は,平仮名で書かなければなりません。詳しくは,別のコラムに書いてきたとおりです。
関連するコラム
- 公用文用語 「等」と書くか「など」と書くか? 2014-07-09
- 公用文の書き方 14 漢字で書く接続詞 「及び」「並びに」「又は」「若しくは」 2014-09-15
- 公用文の書き方 5 “動詞は漢字で,補助動詞は平仮名で書く”と覚えるべし 2014-09-06
- 公用文用語 もと(「下」と「元」と「基」)の使い分け 2014-07-19
- 「宜しくお願い致します」という書き方は間違い 2016-01-19
コラムのテーマ一覧
- 時々のメモ
- コーポレートガバナンス改革
- 企業法務の勘所
- 宅建業法
- 法令満作
- コラム50選
- コロナ禍と企業法務
- 菊池捷男のガバナー日記
- 令和時代の相続法
- 改正相続法の解説
- 相続(その他篇)
- 相続(遺言篇)
- 相続(相続税篇)
- 相続(相続放棄篇)
- 相続(遺産分割篇)
- 相続(遺留分篇)
- 会社法講義
- イラストによる相続法
- 菊池と後藤の会社法
- 会社関係法
- 相続判例法理
- 事業の承継
- 不動産法(売買編まとめ)
- 不動産法(賃貸借編)
- マンション
- 債権法改正と契約実務
- 諺にして学ぶ法
- その他
- 遺言執行者の権限の明確化
- 公用文用語
- 法令用語
- 危機管理
- 大切にしたいもの
- 歴史と偉人と言葉
- 契約書
- 民法雑学
- 民法と税法
- 商取引
- 地方行政
- 建築
- 労働
- 離婚
- 著作権
- 不動産
- 交通事故
- 相続相談
カテゴリから記事を探す
菊池捷男プロへの
お問い合わせ
マイベストプロを見た
と言うとスムーズです
勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。