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公用文の書き方 6 知らざあ言って聞かせやしょう 

菊池捷男

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テーマ:公用文用語

 知らざあ言って聞かせやしょう。浜の真砂(まさご)と五右衛門が、歌に残せし盗人の、種は尽きねえ七里ヶ浜。その白浪の夜働き。以前を言やあ江ノ島で、年季勤めの児ヶ淵(ちごがふち)。江戸の百味講(ひゃくみ)の蒔銭(まきせん)を、当てに小皿の一文字(いちもんこ)。百が二百と賽銭(さいせん)の、くすね銭せえだんだんに、悪事はのぼる上の宮。岩本院で講中の、枕捜しも度重なり、お手長講(おてながこう)を札付きに。とうとう島を追い出され、それから若衆(わかしゅ)の美人局(つつもたせ)。ここやかしこの寺島で、小耳に聞いた祖父さんの、似ぬ声色で小ゆすりかたり。名さえ由縁(ゆかり)の弁天小僧菊之助とは俺がこった。

 御存知、歌舞伎「白浪五人男」の中で、弁天小僧役の俳優が吐く名台詞です。

 一つの文章で,漢字と平仮名が使われる場合,明らかなことですが,漢字は重要な意味を持つ言葉であり,平仮名は,漢字ほどの重要な意味は持たず,漢字の役割を助ける役割があるにすぎないことが分かります。

 これを,歌舞伎に喩えれば,漢字は役者であり,平仮名は黒子ということになります。 昨日のコラムでは,“動詞は漢字で書き,補助動詞は平仮名で書く”といいましたが,それは,動詞が,文章の中で,重要な意味を持ち,重要な役割をするからであり,補助動詞は,動詞本来の意味を失い,ただ,先行する動詞の働きを助ける役割をしているにすぎないからです。
 もし,補助動詞が,動詞と同じく,漢字で書くことを要求することになると,あたかも歌舞伎の舞台で,弁天小僧が,大見得を切っている横で,黒子が素顔を見せるに等しく,文章という歌舞伎の世界を著しく壊してしまうとはいえないでしょうか?

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