契約書 賃貸借契約で「公租公課は貸主が負担する。」との約定の意味
1,信頼利益と履行利益
契約の締結のための交渉は,お互い,信頼関係の下で,一歩一歩積み上げていくものですが,契約交渉の一方当事者が,相手方の信頼を裏切る形で,一方的に契約の締結を不能にしたときは,その当事者は,相手方に対し,信頼利益の損害賠償をしなければなりません。
信頼利益とは,相手方が,やがて契約が締結されるものと信じて,出費した金銭などです。
信頼利益に対置する言葉が履行利益ですが,履行利益とは,契約が成立した場合に得られる利益(儲け)のことです。
突然,期待していた契約が結べなくなったとしても,相手方に請求できるのは,直接身銭を切った分だけで,契約が結ばれたときに得られる儲けは請求できないのです。
2,大手都市銀行間での訴訟
某大手都市銀行甲銀行が,別の都市銀行関連3行乙銀行グループとの間に,業務提携等を目的として協働事業化に関する基本合意書を取り交わして,共同事業化に関する最終契約の締結を目指して交渉をしていましたが,突然乙銀行グループから,交渉の打ち切りを通告されました。
そこで,甲銀行は,乙銀行グループ3社に対し,基本契約が締結されたときに得られる3000数百億円が得られなくなったとして,そのうちの1000億円の損害賠償請求訴訟を起こしましたが,東京地裁平成18.2.13判決は,乙銀行グループ3社に契約締結上の過失があることは認めながらも,乙銀行グループに対する甲の履行利益の損害賠償請求権は認められないとして,請求を棄却しました。
この事件は,甲銀行が,一審で請求した履行利益の損害賠償請求ではなく,100億円の信頼利益の賠償請求に切り替えて控訴し,5億円で和解ができたようですが,履行利益が契約の成立を前提にした儲けであるのに対し,信頼利益が,結局無駄になった費用という意味の信頼利益ですから,3000数百億円と5億円の違いになったものかもしれません。
3,信頼利益でも多額になる場合がある
東京地裁平成10.12.21判決は,新製品の共同開発契約の締結を目指して,契約交渉中,契約が結ばれるものと信じて,材料費,労務費,外注費,間接費等4300円余りを支出していた会社に,同額の信頼利益の損害賠償請求権を認めました。
信頼利益といっても,契約の締結を前提に,準備を進めていた会社にとっては,大きな金額になる場合があるのです。