コラム
契約書知識 19 不利な契約書に記名押印せざるを得ない取引の場合
2014年1月11日
1,弱い立場での取引
営業マンが,苦労の末,せっかく取得した取引。無事に契約を締結させたい一心で,取引の相手方会社が作った契約書に記名押印をしたいと,法務部に持ち込む。法務部は,万一のトラブルの発生に対処できるよう,自社に不利にならない条項に,契約書案の修正を求める。しかし,営業担当者は,そんなことを要求すると,せっかくとった契約が締結に至らないといって難色を示す。という図式は,多くの会社が経験することではないかと思われます。この場合,どうするのがよいのか,を考えてみます。
2,最低限の修正
私の経験上,そのような契約書であっても,次のような契約事項は,相手方会社も修正に応じてくれています。
(1)間違った字句の修正
誤字脱字の修正は,当然に応じてもらえますし,古い法令用語(破産宣告や和議)は新しい法令用語(破産手続の開始や民事再生)に書き直してもらえます。
(2)条文と条文の間に論理的な矛盾がある条項の修正
これも修正に応じてもらえます。ときに,その指摘が相手方会社から感謝される場合すらあります。
(3)多義的な解釈が可能な字句の修正
このような条項は,将来の紛争の火種になりかねませんので,相手方会社も,多くの場合,修正に応じてくれます。
(4)一方にのみ不利な条項と同じ条項を,相手方にも設ける修正
例えば,甲にのみ解除権が認められ,乙には解除権が認められていない場合に,双方とも,解除権を認めるようにする修正です。多くの場合,修正に応じてもらえますが,ただ,この修正要求は,実質的な意味のない場合もありますので,必要がなければ修正を求めるまでもないでしょう。
(5)契約条項が十分に書かれていない場合に,追加の条項を提案すること
相手会社が作った契約書案が簡単すぎ,多くの重要事項が書かれていないため,紛争予防が十全とは思えないとき,自社が,詳細な,しかし,双方に公平な契約書案を提案すると,多くの場合,簡単に認めてもらえます。
案ずるより産むが易し,といいます。
契約書の問題点を指摘し,一方的に不利な条項の修正を求める姿勢は,相手方を怒らせ,取引を破談にするどころか,相手方から信頼してもらえる結果になる場合もあるのです。
ですから,営業担当者の懸念は,杞憂でしかない場合が多く,法務部の契約書審査を重視すべきなのです。
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