コラム
大切にしたいもの 18 模倣
2012年5月28日 公開 / 2016年3月15日更新
1 意味
模倣とは、すでにあるものをまね習うこと、ここでは、人まねをすることの意味で書いています。
人は、人のまねをすることで、知識や技術を学び、技量を向上させ、ひいては、それがその時代の文化の進歩、発展に寄与しますので、人まねは、決して悪いものではなく、むしろ積極的に推奨すべきことなのです。
書を学ぶには、書家の揮毫したものを見、これを手本に文字を書くのが通例でしょう。
模倣なしには、書は上達しないこと一事をとっても、模倣の重要性は理解できると思います。
2 文章の模倣
18世紀の歴史家エドワード・ギボンが著した「ローマ帝国衰亡史」に書かれた文章は、歴史上、多くの著名人が、模倣したとされています。ギボンの文章は、インドの初代首相ジャワハルラール・ネールの筆を借りると、「流れるような旋律を持った文章」であり、哲学者バートランド・ラッセルに言わせると、まさに「芸術」です。また、英国首相ウイルストン・チャーチルは、この文章を模倣して学び、後、ノーベル文学賞を受賞した「第二次世界大戦回顧録」を書いたと言われているほどです。
私など、中野好夫の邦訳で読んだだけですが、その豊富な語彙、豊かな表現力、吸い込まれるような論理、圧倒される説得力、美そのものと言って良い流麗な筆致に、ただ陶然と酔ってしまうほどの感銘を受けたものです。
3 模倣をしない人
模倣は、文化的・社会的に重要な意義をもつ、とは広辞苑に書かれた言葉です。
仮に、先人の事蹟を、なんら模倣もしたことはない、という生き方をしてきた人がいるとすれば、おそらく、その人は、模倣をし、学び、知識を、技量を、智恵を、重ねてきた人との間に、大きな差がついているのではないか、と思います。
人まねである模様。大いに実行し、かつ、奨励すべきことと思います。
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