交通事故 23 後遺障害① 自賠責が認めなかった後遺障害を認めた裁判例
1 意味
PTSD(心的外傷性ストレス障害)とは、強烈な外傷体験により心に大きな傷を負い(トラウマ)、再体験症状(フラッシュバック)、回避症状、覚醒亢進症状が発生し、そのため社会生活・日常生活の機能に支障を来すという疾患をいう。
2 裁判例
⑴ 横浜地判平10.6.8
18歳女性が、交通事故から5年を経過した頃から、不眠、頭痛、嘔吐、錯乱、自傷行為等の精神障害が発症した事例で、裁判所は、交通事故と因果関係のあるPTSDであると認め、後遺障害等級7級4号に該当するとして、67歳までの逸失利益を認定した(ただしPTSDの発症には環境的要因が寄与しているとの理由で治療費については2割、逸失利益と慰謝料については1割を減額)。
⑵ 大阪高判平13.3.27
30歳女性のPTSDを交通事故によるもの、PTSDは等級9級10号に該当するとして逸失利益(労働能力35%減、期間は7年間)認めた。ただし被害者の性格等の素因も考慮して2割減額)
⑶ 実務を変えたと言われる東京地判平14.7.17
以上の2つの裁判例とは違って、一転、被害者には、厳しい判決を書いたのがこの判決。以後、実務に相当の影響を与えている、といわれている。
この判決は、
①「医学的診断基準でPTSDと診断されたからといって、後遺障害等級7級あるいは9級などの評価が直接導き出されるわけではない」と⑴⑵の判決を批判。
②「労災保険の障害認定基準に準拠している自賠責保険実務上は、器質的損傷によるものとの証明ができない心因反応は、外傷性神経症に該当するとして後遺障害等級14級10号と認定されている」と言い、PTSDは認定されてもせいぜい14級でしかないといわんばかりな言辞。
③ ただ、「交通事故は程度の差はあれ誰しもストレスを感じる出来事であるが、ストレス症状が、傷害の治癒や時の経過によっても消失せず後遺障害として残存した場合には、傷害慰謝料を超える賠償の対象となり得る」ことは認め、
④ しかし、「目に見えない後遺障害の判断を客観的に行うためには、今のところ上記基準(筆者注:医学基準)に依拠せざるを得ない。そして、外傷性神経症より重度の障害を伴う後遺障害として位置付けられたPTSD判断に当たっては、要件を厳格に適用していく必要がある。」と判示した。
結果、この事件では、判決はPTSDであることを否定したが、等級14級10号に該当する外傷性神経症であることを認め、逸失利益(労働能力喪失率5%、期間10年間。ただ素因減額2割)を認めた。