遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 遺産分割は誰がするのか?
⑴ 協議
共同相続人間で協議をして、全員が一致すれば、遺産分割は可能です。
⑵ 家庭裁判所の調停・審判
当事者間で協議ができないときは、家庭裁判所で審判をしてもらえば、遺産分割ができます。家庭裁判所では、審判をする前に、当事者間の合意で遺産分割ができるように、調停の試みが先になされることになります。これを調停前置主義といいます。
2 遺産分割の基準
「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」(民法906条)ことになります。
3 家庭裁判所は、遺産分割の基準に関する民法906条により、相続分を変更することができるか?
家庭裁判所は、遺産分割の審判をする場合、「・・・その他一切の事情を考慮してする」(民法906条)ことができますので、共同相続人の相続分を変更あるいは修正することはできるでしょうか?
例えば、被相続人が甲乙という2人の嫡出の子を残して死亡した事案で、特別受益も寄与分もなければ、2人の子は各1/2ずつ相続分(法定相続分)を有することになるのですが、裁判所は、例えば健康で安定した収入のある甲より、病弱で安定した収入のない乙に多めに、例えば、甲には2/5程度、乙には3/5程度となるような遺産分割をすることはできるでしょうか?
それはできないとされています。最高裁判所家庭局は「民法906条は法定相続分を具体的に分割の結果として出すための技術的規定であり、法定相続分の変更を許す趣旨ではない」との解釈を示しているのです。
4 では「その他一切の事情」とはどのような事情か?
裁判例で見ますと、
① 大阪高等裁判所昭和58.2.7決定は、相続人のうち抗告人のみが現住居を奪われる結果となる等を理由に原審判が定めた具体的分割方法が相当でないとして、住居を取得させる内容に変更しております。
② 広島高等裁判所昭和59.2.17決定は、永年家業に従事し、被相続人が病に倒れてから10年以上にわたつて同人の療養看護に尽くした妻についてその貢献度が通常の寄与にとどまり特別の寄与には当らないと断定するにはなお審理の必要がある上に、被相続人の作成にかかる書面が遺言としての効力はないが、被相続人の真意を伝えているものである可能性もあり、それを十分に審理すれば、被相続人が生前妻に贈与していた財産の持戻しを免除する意思であった認定する余地もないとはいえないので、審理をやり直せ、と、原審の審判を取消しています。
③ 森岡家庭裁判所昭和61.4.11審判は、相続財産である被相続人の自宅で長年居住し、重い老人性痴呆症の被相続人を10年以上看護扶養してきた相続人に、その自宅を取得させ、その相続人の相続分を超える分は金銭で他の相続人に支払わせる代償分割になる審判をしました。