コラム
相続 70 預貯金債権も、遺産分割の対象となるのか?
2010年12月16日 公開 / 2010年12月28日更新
1 預貯金などの可分債権
資産の中の預金債権などの可分債権は、遺産分割の対象にはなりません。
各相続人は、預金債権については、遺産分割協議をしなくとも当然に、法定相続分又は指定相続分によって分割された金額分を相続しています。それは、金額で分割が可能だからです。
最高裁昭和29.4.8判決は、「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とする」としています(これを「分割債権説」といいます)。
2 実務の扱い
実務では、銀行は、相続人全員の預金払戻し請求書あるいは領収書か遺産分割協議書(遺産分割調停調書や審判の謄本を含む)の提出がないと払戻しに応じないという態度をとる場合がありますが、法的には、銀行が相続人に対し預金の払い戻しを拒否することは認められませんので、相続人から訴訟を起こせば、裁判所は、銀行に対し、払戻しに応じなかった期間の年5%の割合による遅延損害金をつけて支払うよう命じることになります。
3 遺産分割の対象になる預貯金
定額郵便貯金については、旧郵便貯金法7条で「一定の据置期間を定め、分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するもの」とされていますので、分割払戻禁止期間である預入れの日から10年を経過する日までは、分割払戻しになる共同相続人の一部からの払戻請求は認められないというのが判例(東京高裁判決平成11年3月25日。最高裁平成13年3月23日上告不受理決定)ですので、このような債権については、理論上は可分債権ですが、遺産分割の対象に含められています。
なお、最近の判例であります、最高裁平成22.10.8判決は「郵便貯金法は,定額郵便貯金につき,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(7条1項3号),預入金額も一定の金額に限定している(同条2項,郵便貯金規則83条の11)。同法が定額郵便貯金を上記のような制限の下に預け入れられる貯金として定める趣旨は,多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上,預入金額を一定額に限定し,貯金の管理を容易にして,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図ることにある。ところが,定額郵便貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。他方,同債権が相続により分割されると解したとしても,同債権には上記条件が付されている以上,共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず,単独でこれを行使する余地はないのであるから,そのように解する意義は乏しい。これらの点にかんがみれば,同法は同債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」
として、定額郵便貯金は、政策的理由で可分債権ではない旨判示しました。
4 定額郵便貯金以外の預貯金でも、相続人間の合意で、遺産分割の対象にすることは可能
預金など確実に回収可能な債権は、ほとんど現金と同じ感覚で扱うことが出来ますので、その他の遺産、例えば不動産の分割をするときに、共同相続人間で必ずしも予定している相続分どおりに財産を取得できないような場合、その不均衡を是正するために預金を法定相続分とは異なる配分にすることで調整することできますので、預金を遺産分割の対象にした方が良い場合があります。
そのため、裁判所は、共同相続人全員が預金を遺産分割の対象にすることに同意した場合は、遺産分割の審判の対象にできるとしています(東京高裁平成14年2月15日決定)。
実務では、預金を遺産分割の対象資産としている場合が結構あります。他の共同相続人から異議が出ない場合は、これを分割対象にしているが現状であると思えます。
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