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寺田淳

シニア世代が直面する仕事と家庭の問題解決をサポートする行政書士

寺田淳(てらだあつし) / 行政書士

寺田淳行政書士事務所

コラム

最近の相談例から

2022年6月1日

テーマ:新橋事務所日記

コラムカテゴリ:ビジネス


【今日のポイント】

 今日から6月、気分一新で迎えるにふさわしい快晴の新橋です。

 5月の連休明け以降、制限緩和の効果もあって、いろいろと相談が続いています。
今日はそれらの中からランダムに「シニアが直面した問題」を紹介したいと思います。 

【3段階の収入見直し】

 男性サラリーマン、54才の方です。
誰もが知る一部上場(この言い方ももう古いですが)企業の管理職です。

 来年に迫った「役職定年」を前に、今後の人生をどの仕事で迎えるべきかを相談されました。サラリーマンの方には説明の必要もないでしょうが、ご存じない方のためにごく簡単に説明します。

 ある役職に就いて、決められた年齢に達するとその役職を解かれ、一般社員として業務に就く制度です。この方の場合55才が課長職での役職定年の年齢で、それまでに昇格(部長・次長など)しなければ平社員になります。

 本人の話では、ほぼ昇格の可能性はないので、今のうちに第二の仕事を検討する気になったとのことでした。

 人事院の調査によりますと、役職定年制度を導入している会社の中で、「課長級の役職での定年を55才から」と想定している会社が実に90%以上!というデータが出ていました。

 まさに典型的な制度導入の会社というわけです。

 全ての会社でとは言いませんが、一般的に課長職以上の管理職の場合、収入は3段階でダウンしていきます。最初の減収はこの役職定年で、役付手当等が無くなります。次に本当の定年退職で、収入自体が無くなります。

 そのまま年金生活や貯蓄の切り崩しで過ごすケースもありますが、多くは再就職を選択します。
全く新しい会社で仕事に就くか、今までの会社に嘱託社員で再雇用というケースです。

 仮に現役時代(課長職)の年収が800万の場合、再就職先で約半額に、嘱託社員になった場合も同様で、殆どは300万円台半ばなら御の字というのが平均的な収入の減額カーブと言われています。

 この現実を頭では理解しても、なかなかそれに見合った生活への軌道修正が始まりません。
それどころか、そろそろ健康に不安を感じ始めた老親の問題や、下の子供が大学入学で一人暮らしが決まったなど等。

 出費に関しては「右肩上がり」が必至と予想されるのです。

 段階的に減る収入と高値で安定し続ける支出を前に、どう向きあればいいかといった相談でした。

 この方の場合、結論を出すまで1年近い時間があったので、正確な収入源額の算出と予想される今後10年以内の高額出費の想定を始めることで、役職定年後も今の会社の給与で何とかなるか、または再就職の場合の譲れない給与水準は幾らになるかを想定することを提案しました。

 同時に再就職に備えて自分の強味や過去の実績、スキル等の洗い出しを行うこともアドバイスしました。
 

【退職1年後に落とし穴?】

 意外に正確な納税額を把握していないサラリーマンは少なくないようです。

 多くは給与明細の中の源泉徴収欄の金額を見て嘆息します。
面倒な税金の計算は会社が肩代わりしてくれるので徴収額を自分で計算する方は稀でしょう。

 相談者は64才の男性会社員、ある企業の「常務取締役」です。

 相談は前述した方と同じで、今後の仕事についての相談でしたが、話の中で気になったことがありました。

「年度内に役を退いたら、1年は妻と一緒に温泉巡りでもしてリフレッシュしたい。仕事はその後で。」という考えを持っていたのです。

 さて、住民税は毎年前年の収入をベースに算出され、課税されてきます。
中堅企業の役付の取締役ともなれば、それなりの年収ということは容易に想像出来ます。
その金額に対しての課税は退職の翌年です。無職で散在している最中に納税が発生するのです。

 この方以外でも、役職定年前に管理職のまま退職した場合、やはり月収は入社以来最高額と推測出来ます。ピーク時の収入をベースに課税された住民税が、もしかすると無職のまま=収入ゼロの翌年に納付する訳です。

 収入が減少(激減)しても、住民税が減額になることはありません。ましてや支出が今まで同様、またはこの事例のように「散財」に近いものであれば、どうなるか?

 結局この点の指摘で話は中断し、まずは旅行計画の見直しと税金対策を優先することになり、再就職など仕事探しは後日改めて、という結論に落ち着きました。
 

【40代で向き合う仕事と出会い】

 45才男性会社員の方の相談でした。

 このコロナ禍、今の勤め先の業績が年々右肩下がりを続け、将来的に大きな不安を感じるようになった。

 幸い役職定年に該当はしないものの、果たして63才(この方の会社規定)の定年まで現状維持でいいのか? 幸いある分野での資格を持っており、これを活かしていい出会いがあれば転職したい。

 内容は書きませんが、この方は特殊な資格を有してその分野での業績も見事なものでした。恐らくハローワークに行っても容易に求人企業を見出せると感じました。

 その方の不安は、自分が力を発揮出来そうな募集企業の多くが「若い会社」という点でした。

 多くの場合、早期退職で40代から50代前後で再就職を目指すシニア世代を中途採用する企業側としては、その人物の経験値とスキルが会社の即戦力になりうるか否か?この1点だけが採用の可否の判断の基準になります。

 特に時流に乗った新興企業によく見受けられるのが、
社内体制が急成長に追いつけず、業界のベテラン営業マンや社内総務や管理業務の即戦力になるようなシニア求人をしているケースです。

 ですが、肝心のシニアサイドからすると、
再就職を希望する会社で「なるべく避けたいポイント」として挙げてくるのが、

・職場や会社の平均年齢が20~30代半ばではないか?
・現在の最高齢の社員の年齢は自分より上か下か?
・管理職の平均年齢は何歳か? 

 等といった、「世代間ギャップによる孤立や疎外感を避けたい」という声が少なくないのです。

 確かに、中には募集要項には年齢不問等を謳いながら、実際はシニアの採用実績がゼロという問題企業もないわけではありませんが、多くの場合は「まじめな理由で」シニア求人をしています。

 会社としても、職場としても、社内にはいないベテランの経験と知恵を必要と感じている訳です。それなのにシニアの方から勝手にしり込みしていては、せっかくの出会いの機会を自ら放棄するようなものです。

 今回の相談者の不安と迷いは、まさにこの点にありました。


 とはいえ、あえて不安定要因をあげるとすれば、
採用側も創業以来初めての中途採用であり、かつシニア人材の採用であるという点でしょう。

 中途採用のノウハウも経験もなく、その人となりを見定めることが出来るかどうか?
人柄の面で職場との相性はどうか? 何より体力・健康面に問題を抱えていないか?

 若手の定期採用時とは全く異なる採用基準で推し量る訳ですから、会社側も手探りです。 

 求職をする側には、
その会社に自分の経験やスキルがどう役に立つか、どう役立てたいか?
この点を明確にしておく必要があります。

 対して採用する側は、

・仕事への意欲や自信がどの程度あるのか?
・会社側が求めている役割を本当に果たせる人材か? 

 を最優先で臨んできます。

 お互いが手探りで腰が引けていては、まとまる話もまとまらないでしょう。

 この方には考えているだけでは何も変わらないので、ハローワークでの相談や転職サイトでの情報収集、または人材登録で積極的に自分の価値を把握することで、変な気後れをしないで自分が力を発揮出来る会社との出会いを積極的に求めるよう行動することから始めることを提案しました。

【相談から見えてきた最近のシニア事情?】

 3年にわたるコロナ禍で、起業や独立に加えて再就職や転職の相談等、現状打破を目指す相談例は激減していました。

 それがこの5月以降徐々にではありますが、復活の兆しが見えてきました。 

 今の会社での将来の不安や、リモートワーク等の合間に仕事と向き合う、家族と向き合う、今後の人生設計に向き合う時間が十分取れたことで、いろいろと考えることが出来たのでしょう。

 ですが、今回紹介した事例のように

「何かをしないといけないことは認識したが、何をすればいいかが分からない。」

 恐らく人生で初めて第二の人生や第二の仕事について正面から向き合ったのでしょう、そういった相談初心者が多くを占めていました。

 以前のように既に事業計画を作成済み、または応募する業種や職種を絞り込んでの相談者に比べると、漠然としたやり取りを重ねることになりますが、それでも相談という第一歩を踏み出したのは事実です。

 この点から見れば、3年間のコロナ禍は特にシニア世代に、働き方について考えるきっかけにはなったのではと考えた次第です。



  

この記事を書いたプロ

寺田淳

シニア世代が直面する仕事と家庭の問題解決をサポートする行政書士

寺田淳(寺田淳行政書士事務所)

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