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新谷千里

高利益を出すスーパーマーケットにするコンサルタント

新谷千里(しんがいちさと) / 経営コンサルタント

有限会社サミットリテイリングセンター

コラム

多くの人が知らない・・・在庫の科学:実践編 【商人舎magazine・6月号】

2016年6月13日 公開 / 2020年2月1日更新

テーマ:スーパーの業務改善

コラムカテゴリ:ビジネス

在庫管理は、粗利益、営業利益共に、会社の業績を大きく左右する重要な要素です。

在庫を量と質の両面から、常に適切に管理すること。
商品に、出来るだけ手をかけず、鮮度を保ち短時間且つローコストでお客に届ける。
また、手を掛ける場合は、付加価値を確実に加えて販売出来るようにする。

「在庫管理の不備は、経営資源である人、物、金、そして、情報、その全てに関わり、生産性に大きく影響を及ぼす重要事項である」ということを前回の記事でお話しました。

そして、もう一つ、在庫に関わる重要な要素が、『時間』です。
時間は、LSP(レイバー・スケジューリング・プログラム)のように、スケジュールを管理ということもありますが、実は、時間の中身、「誰が・・・」「どう使ったか・・・」ということが、業績を大きく伸ばす上で非常に重要なことなのです。
一日の使える時間(有効人時)の内、特にリーダーが、売上や利益に直接つながる重要な業務(作業ではない)に、どれくらい使っているかが、時間の経過とともに会社の競争力を大きく左右します。
時間は、誰にでも公平に割り当てられているものです。
時間に対する生産性を考え行動する癖を付けることが、生産性を飛躍的に向上させる基になります。
在庫は、この時間に大きく関わることでもあります。

『時間』の生産性については、今後の記事の中で詳しく述べることにしますが、今回は、この大事な時間もムダにしてしまう、在庫管理の実践の部分についても解説していきます。


在庫管理の基本・・・「品質」と「数量」と「物流」


在庫管理は、品質管理と数量管理、そして、物流管理に大別して、考えることが重要なポイントです。

品質管理は、鮮度や品質、汚損や破損、温度や湿度、日付等の確認が必要になります。
特に、鮮度や品質については、プロの目利きで管理することが求められます。

「お客の立場で・・・」ということで、他部門のパート社員にチェックをさせていることや、
「全員でやっている」というチェックでは、高いレベルの品質チェックが出来ているとは、到底言い難いと言えます。
特に、生鮮部門は、他の業態の店と競合する意味において、とても重要な項目であるのです。
お客の目線程度で、チェックしていては、お客との信頼と信用を築き上げることは、難しいと言えます。
当然のこととして、リーダーがチェックすべき重要業務です。(それに伴う値引きなどの処理作業は、パート社員でOK)
顧客に対して、絶対的な信用を築き上げるためには、プロとしての仕事が求められます。

そして、温度や日付に関しては、商品ごとの管理基準(社内ルール)を写真や数字を使って明確にしたマニュアルを作って、新入社員やパート社員でも理解できるように、「管理の仕組み」を作ることが重要です。

数量管理は、実際の日々の販売量や、販売計画に合わせて管理されます。
仕入れ、保管、陳列の場面毎に管理基準を作ることをお薦めします。
基本的には、POSデータ(ベストレポート、販売数量順)を活用すると良いでしょう。
発注数量は、POSデータと日別曜日別の販売実績や、天候や競合状況、地域催事などの外部要因を加味して、販売計画を策定し、数量を決定します。
保管量に関しては、商品特性や保管状況などによって、鮮度や味など、品質を十分に確保できることを勘案して決定します。

陳列量についても、保管と同様ですが、加えて、補充回数などの作業性を勘案して決定します。
生鮮品は、鮮度最優先ですが、日持ちするグロサリー商品などは、売り場で高回転では、期間内の補充回数や発注回数が多くなり、作業工数を増やしてしまい、作業人時を多く必要とします。(人時ロス)
また、欠品の確率を高め、機会ロスの発生も考えられます。
戦略的、科学的な管理が求められます。(管理手法は、以下の項目で解説します)
そして、このことに気付いていない、企業は意外に少なくありません。

物流管理は、物流費は勿論のこと、商品の品質や欠品などにも大きく影響します。
基本的には、質、量、時間共に、『店舗最適化』の仕組みを構築する必要があり、結果的にローコストで、生産性の高いシステムを構築することができます。


マテリアル・ハンドリング(マテハン)と動作経済


スーパーマーケットでは、在庫の移動や保管、加工や補充など、在庫管理に多くの時間を使っています。

ところが、これらのことについて、理解し、生産性を高める改善努力をしている会社は、多くないのが現状です。特に、中小零細の会社の多くは、それが顕著に現場で確認できます。

ロング・カートやカーゴテナー、カット台車やミニ・キャリアなど、物流センターからの納品や、バックルームの保管、店内加工や補充など、無駄な移動や動作を削減し、生産性を上げるために適切に使用しなくてはいけません。
また、毎日何回も使用されるマテハン機器は、費用対効果が抜群に高く、これらの機器への投資を控えてはいけません。

在庫管理の作業は、マテハン機器を正しく使いこなすことと、作業担当社の両手作業や移動距離を短くするような方法や手順、動作経済の原理を理解した行動が、大きな生産性改善を可能にします。


戦略的に在庫をコントロールする・・・定番とイベント企画


では、実際の店舗で活用する、業績を大きく変える手法の一部を紹介します。
中小零細のスーパーマーケットは、大手と戦うときに、コストと粗利益、両面に大きく関わる非常に重要なポイントですので、確実に実行してもらいたいと思います。

【効果的な定番管理】

ポイントは、フェイシング(拡縮)と陳列量です。
POPデータのベストレポートの販売数量順(直近3~4週程度)を活用して、数量管理を行います。
グロサリーは、1週間当たり、生鮮品は、1日当たりの販売量で、ABCDのランク分けを行います。
そして、ドットシール(ランク毎に色分けする)などを使って、対象商品のプライスカードに貼付します。
 (例)A-10個以上・・・赤色シール
B-7個 〃・・・緑色 〃
C-3個 〃・・・黄色 〃
D-3個未満・・・シール無し

こうすれば、発注担当者が、売り場で発注の有無や発注量の決定までの判断時間が早くなり、精度も大きく向上することになります。
また、誰が売り場を観ても、棚全体や単品の売れ行きが解りやすくなるので、フェイスの拡縮による視認率のアップや在庫調整、棚替えなどを戦略的に行いやすくなります。


【効果を拡大する、イベント企画の管理】

大小の販売企画(イベント)を管理して、企画全体の品揃えや数値管理などと、次回の同企画を実施する時の販売計画のバージョンアップや発注精度を高めることができます。

POPシステムで、企画や特売管理の仕組みを利用して、対象アイテムをストア・コントローラ(POS)に企画名と全て対象アイテムを登録して、販売に当たります。
企画終了後、単品と企画全体の売上高と販売数量を確認して、より良い結果を出すためにP-D-C-Aのサイクルを効果的に回して、利益の拡大を目指します。

以上のことは、ノウハウの一部ですが、実行して頂ければ、確実に成果を生むことが出来ると思います。
現在やっていなければ、早期の実行をいただきたいと思います。

より詳しく知りたい方は、こちらから、関係記事を参照して下さい。
 こちらから⇒http://www.summit-rc.com/


効果的在庫管理の工夫事例・・・陳列


下の写真は、青果部門のバラ売りを多くしている売り場の事例です。
バラ売りを多くして、ボリューム感や鮮度感といった、売り場のインパクトを高めてお客の目を引き、同時に補充頻度を下げることを目的とした陳列手法です。
AS青果トマト

下の写真は、グロサリーの特売品を前日夕方に陳列している事例です。
明日の特売品を夕方陳列して、来店客に告知をして、明日の来店動機を促します。
夜間や閉店後の作業を削減して、全体としての作業スケジュールを効率的に組むことが出来ます。
SMPOP予告


これらは、ほんの一例ですが、今までのやり方に囚われることなく、頭を柔軟にして考えれば、お客の支持を得て、従業員も楽が出来て、そして、来店客数を増やし、利益を拡大するという、一石二鳥、三鳥の方法はあるものです。


業績を向上させた、在庫管理の事例


ここでは、前回記事の “視点および思想”に続き、具体的な“業績改善の手法”について、私のクライアントの事例を織り交ぜながら、解説したいと思います。

<事例1> 月間620万円の営業利益アップ(高級スーパー、店舗)

訪問当初、過剰在庫により、店舗のバックヤードの他に、近隣の倉庫を借りて、陳列什器や備品、一部の商品在庫を保管するという状態でした。
売り場とバックルームの階も違い、商品の上げ下げに多くの人時を使っている状態でした。

POSデータの活用や、販売方法や陳列方法も見直し、全体的に在庫を圧縮し、早期に借用倉庫の契約解除を行い、固定経費を削減しました。

ハイグレードの品揃えで、取り扱いアイテムが特殊なものも多く、納品ロットも多く、在庫の改善が進みにくいものも有りました。一部は、関連販売やメニュー提案を行い、売り切る力を付けてもらいました。

また、生鮮品は、発注業務を徹底的に管理して、在庫を適正化して、作業工数を減らし、人件費を削減。鮮魚などの地場商品を強化して、独自性を打ち出し、客単価アップも実現して行きました。



結果、半年後から、営業利益が前年をクリアし実績に変化が出だしました。12ヶ月目には、前年同月対比で620万円の営業利益をアップさせることに成功しました。
一年半を過ぎる頃から、売上高も前年をクリアするようになり、数年ぶりに順調な店舗運営が実現することになりました。


<事例2> 営業利益が200%アップ(地方スーパー、青果部門)

訪問当初は、完全な過剰在庫状態で、バークルームのプレハブ冷蔵庫の中にも在庫がいっぱいで、商品を探すのも一苦労するという状態でした。
ですから、全体的に売り場の鮮度が悪く、バックルームに引き上げられた商品も、バナナ箱に10ケース前後は常にある状態が日々続いていました。

一番の原因は、日々の販売数量をほとんど把握していないことが原因です。
改善策として、POSデータのベストレポート(数量順)を使って、販売数量(平日と繁忙日)の把握をすることを教えました。
在庫管理が出来ていない店舗のほとんどがPOSデータを日々活用していません。

ポイントとしては、平日のベスト・レポート(数量順)で、単品別の販売数量を把握します。
販売数量の多い重点アイテムと、定番の品揃えアイテムと言うように、ざっくりとした数量把握でも、十分在庫の適正化に繋ぐことが出来ると思います。

その他、売場作りや重点商品管理、作業改善など合わせて改善することにより、一年後、青果部門の粗利益が大幅に改善し、人件費も低下、営業利益は、2倍に跳ね上がりました。


<事例3> 年間3億円の営業利益アップ(リージョナル・チェーン、青果部門)

売り場は、陳列演出のレベルが高く、全国的に見ても評価の高い売り場です。
訪問当初の一番の問題は、部門全体での営業赤字です。

各店舗では、過剰在庫による、商品ロストとムダな作業の発生による人時ロスが多発。そして、物流システムの機能不全による機会ロスと在庫過多状態でした。

バックルームの大型プレハブ冷蔵庫には、何時入荷したのかわからない、多くの在庫で満タンです。
そして、売り場在庫も単品別に全く管理されていない状態で、経験と感に頼ったアナログで、とても管理とは呼べない状態でした。

自然と、商品ロスが多くなり、値入れも高くなるという悪循環に陥っていました。
ただ、過剰在庫の原因は、店舗チーフの責任ばかりではなく、本部の物流システムの不備に大きく関係していました。
店舗への搬送回数は4便と多いのに、店着時のアイテムが曖昧であったり、本来、朝一番に届けられなければならない鮮度を優先する葉物野菜などが、夕刻の入荷であったりして、発注担当者は、憶測で発注するという状態が、あたりまえになってしまっていました。

本部の物流体制を大幅に見直し、一部はセンターを経由しない市場直送などに変更し、アイテム毎の店着時間を決めました。
店舗の発注担当者も、発注が計画的にしやすくなり、POSデータの活用と合わせて、大幅に店舗在庫を減らし、適正に保つことができるようになりました。
また、合わせて、社内ディストリビューター(配送管理責任者)を一時的に配置し、「店舗最適化」のための物流改善を行いました。

・粗利益アップ(商品ロス、機会ロスの大幅削減)
・作業工数削減による人件費削減
・物流費の大幅削減
などにより、鮮度アップと、欠品削減等により、売上も向上し、大型店を中心に、大幅な営業利益の拡大が実現しました。部門全店の営業利益の改善金額は、3億円を超えました。


在庫管理改善の効用のまとめ


無駄な在庫が多いと、管理のために多くの無駄な作業を必要として、結果的に、無駄な人時を発生させることになります。
当然のことながら、その無駄にした時間は、ロスであり、優先すべき重要な仕事の時間を奪ってしまうことになります。

在庫を適正に管理するためには、そして、良い結果を出すためには、発注が基本になます。
例えば、現場でよく見かける特売用のロット買いですが、確かに一品あたりの原価を安くして、値入れ(粗利益ではない)率を上げることは可能です。
しかし、作業工数や商品ロスなどを考えると、営業利益ベースでは、必ずしもプラスでない場合も多いと言えます。

在庫の管理の良し悪しは、会社の経営に大きく関わる重要な問題であることは、理解していただいたと思います。ついつい後回しにしてしまっている在庫の最適化。
ビジネスとして、生産性を向上させて、営業利益を拡大するためには、優先的に、そして、早急に改善すべき重要課題なのです。

目先の売上のことばかり考えていると、在庫管理が疎かになり、ムダな経費やロスの発生によって、利益を大きく落としてしまいかねません。
在庫管理(=コントロール(修正))は、戦略の実効性も影響して、会社の利益を大きく左右する、マネジメント上とても重要な要素なのです。


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