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中村正彦

遺産相続に関するトラブルを法的に解決する弁護士

中村正彦(なかむらまさひこ) / 弁護士

弁護士法人 松尾・中村・上法律事務所

コラム

相続法大改正!!(後編)

2019年8月2日 公開 / 2021年2月24日更新

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き相続問題

(前編はコチラ)

遺産分割前の相続預貯金払戻し制度の創設

 平成28年12月19日の最高裁決定で、被相続人名義の預貯金は、遺産分割の対象となることが確認されました。この決定がなされる以前から、実務上、金融機関は、相続人全員の同意がなければ、被相続人名義の預貯金の払戻しに応じていませんでしたが、上記最高裁決定後は、法的にも、遺産分割前に相続人が単独で預貯金を払い戻すことが不可能になりました。
 しかし、これでは、葬儀費用や残された配偶者の生活費・医療費など、相続人に喫緊の資金需要がある場合にも、預貯金についての遺産分割が終了しない限り、被相続人名義の預貯金を払い戻すことができず、あまりにも硬直的過ぎるのではないかと問題になっていました。

 そこで改正法では、被相続人名義の預貯金のうち、一定額については、家庭裁判所の判断を経ることなく、相続人が単独での払戻しをすることができるようになりました。
 各相続人が払戻しをすることができる額は、以下の計算式により求められます。
 ただし、同一金融機関からの払戻しは、法務省令で定める150万円が限度とされています。

  <単独で払戻しをすることができる額の計算式>
   相続開始時の預貯金額×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分

 例えば、預金額が600万円で相続人が子2名のみの場合、子1名が単独で払戻しをすることができる額は、600万円×1/3×1/2=100万円となります。

 また、家庭裁判所に遺産分割の調停や審判が申し立てられている場合、相続人は、家庭裁判所に、被相続人名義の預貯金について、仮分割の仮処分の申立(仮払いを求める手続)をすることができ、これについて、家庭裁判所が、「相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要がある」と認定し、かつ、「他の共同相続人の利益を害しない」場合、家庭裁判所の判断で、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部を、仮に取得させることができるようになりました(家事事件手続法の改正。従前の規定の要件を緩和)。
 なお、この場合に払戻しが認められる額は、「家庭裁判所が仮取得を認めた額」となります。

遺留分減殺請求から生じる権利の金銭債権化

 遺留分とは、遺言等によっても侵害することができない相続人の最低限度の取り分のことです。
 従来、相続人が遺留分の権利(遺留分減殺請求権)を行使すると、減殺の対象となる財産は、遺留分の権利を行使した者と、その相手方との共有状態になる(「物権的効果」といいます)と解されていました。
 例えば、相続人が長男と次男の2名のみで、1000万円の不動産が唯一の財産である場合に、被相続人が遺言で、長男にこの不動産を遺贈しているとします。
 この場合、次男にも遺留分として4分の1(相続分1/2の1/2)の権利がありますので、次男が遺留分減殺請求権を行使すると、当該不動産は、長男が4分の3、次男が4分の1の割合の共有となります。
 しかし、これでは、遺言をした被相続人が、不動産を長男に単独で全部取得させようとした意思に反する結果になってしまいます。

 そこで、改正法では、遺留分減殺請求権の行使によって、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する権利が生じるものとし(権利の金銭債権化)、もって、無用な共有状態の発生を回避するとともに、遺言者の意思の尊重を図っています。
 上記事例の場合、改正法によれば、次男には、遺留分減殺請求権行使の結果、長男に対して、不動産価格の4分の1の額である250万円(1000万円×1/4)の支払を求める金銭請求権が生じるだけですから、長男としては、この250万円を次男に対して支払いさえすればよく、不動産については単独で全部取得することができます。

 また、遺留分減殺請求権の行使による請求を受けた者(受遺者等)が、直ちに金銭を準備できない場合には、受遺者等の請求(申出)により、家庭裁判所が、その支払の全部または一部について期限を許与することができるようにもなっており、できる限り、遺言者の意思を尊重するべく配慮がなされています。

相続人以外の親族の貢献を考慮する制度の創設

 改正前は、被相続人に対する療養看護、その他の労務の提供によって、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をしたのが「相続人」であれば、その相続人は、自らの相続分に寄与分を加えるよう請求することができるのに対して、これが「相続人以外の親族」(例えば相続人である長男の妻など)である場合、どれだけ無償で被相続人の介護に尽くし、特別の寄与をしたとしても、法律上、これに報いる制度はなく、何らの対価も得ることができませんでした。

 改正法では、このような不合理を解消するべく、相続人以外の親族(=6親等以内の血族、3親等以内の姻族)が、上記のような特別の寄与をした場合には、相続人に対して、その対価となる金銭(特別寄与料)の請求をすることができる制度が設けられました。
 特別寄与料の金額など、その支払については、原則として当事者間の協議で決められます。協議が整わないとき、または協議ができないときは、家庭裁判所に決定してもらうことができます。


 以上が改正相続法の概要です。どのような法改正でもそうですが、改正後しばらくは新たな制度がどのように運用されるのかが定まらず、実務も混乱しがちです。
 他方、過度に混乱を避けようとして、新法の利用をためらうと、せっかくの法改正が無駄になってしまいます。
 実務が定着していない法改正直後は、法律実務家としてのバランス感覚と実行力が試される場面です。
 私たちとしても、改正法を積極的に利用すると同時に、できるだけ混乱を避けつつ、当事者にとって、使い勝手のよい実務を定着させることに貢献できるよう努力をしたいと思います。

                             弁護士 上 将倫

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