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中村正彦

遺産相続に関するトラブルを法的に解決する弁護士

中村正彦(なかむらまさひこ) / 弁護士

弁護士法人 松尾・中村・上法律事務所

コラム

相続法大改正!!(前編)

2019年8月2日 公開 / 2021年2月24日更新

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き相続問題

約40年ぶりの大改正

 戦後、新しく定められた民法の相続分野(この相続について規定した部分を総称して「相続法」といいます)は、昭和55年に改正されて以来、大きな改正は行われていませんでした。しかしながら、高齢化の進展や家族関係の変容など、前提となる社会環境の変化に対応するため、相続法の変革が求められていました。
 例えば、技術が進歩し、パソコンが広く社会に普及したにもかかわらず、パソコンで作成した遺言書は有効な自筆証書遺言とは認められませんでしたし、高齢化の進展に伴い、残された配偶者も高齢化し、従来の制度では十分に保護できない場面も出てきました。また、介護に尽くした親族への評価も決して妥当なものとはいえませんでした。

 これら社会の要請を受け、平成30年7月、ついに相続法改正案が成立し、去る令和元年7月1日に改正法が施行されました(一部は平成31年1月13日に施行済。一部は令和元年7月10日に施行)。

 今回は、この相続法大改正の概要について解説したいと思います。

自筆証書遺言の改革

① 財産目録について方式を緩和
 公正証書によらない遺言をする場合には、死亡が迫っている危急時を除いて、遺言書の全文を自筆で作成する必要(「自筆証書遺言」といいます)があり、添付する財産目録などについても、自筆で作成されていなければ無効とされていました。
 そのため、遺言者にとっては負担が大きく、決して広く活用が進んでいるとはいえず、また、せっかく遺言書を作成していても、不備のため無効とされてしまい、遺言者の最終意思が無に帰してしまうことも少なくありませんでした。
 そこで改正法では、遺言者の負担を軽減するため、自筆証書遺言に添付する財産目録(財産の一覧表)については、パソコンで作成されたものや、登記簿謄本(または登記事項証明書)や通帳の写しなど、自筆によらない書面の添付でもよいことになりました。ただし、財産目録の全てのページに署名・押印をする必要があります(平成31年1月13日施行済み)。

② 法務局での保管制度の新設
 自筆証書遺言については、これまで、遺言者自身が自宅で保管していることが多かったため、せっかく作成しても、紛失してしまったり、第三者に書き換えられてしまったり、廃棄・隠匿されるおそれがあるなどの問題がありました。
 今回の改正では、こうした問題が発生することを防止するため、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)が新設され、遺言者が自筆証書遺言を法務局に預けることができる制度の運用が始まります(令和2年7月10日施行)。
 自筆証書遺言の場合、遺言者の死亡後に家庭裁判所で検認の手続を経る必要がありますが、この制度に基づき法務局が保管する自筆証書遺言については、検認手続が不要になりますから、円滑な相続手続が可能となり、相続人など遺産の承継者にとってもメリットがあります。

 以上、方式緩和と保管制度の新設とが相まって、自筆証書遺言の利用を促進し、遺言者の最終意思の実現を図ることによって、遺産相続を巡る紛争が抑制されることが期待されています。

配偶者保護のための施策の導入

① 持戻し免除の意思表示の推定
 相続人に対して生前に贈与等がなされている場合には、原則として贈与等された財産を、遺産に持ち戻した上で相続分の計算を行い、贈与等を受けた当該相続人については、その贈与等によって取得した分を差し引いて、遺産の分割がなされることになります(特別受益の持戻し)。
 このような持戻しによる計算をしないためには、被相続人に、生前に持戻しを免除する意思表示があったことが必要になります。
 しかし、主立った相続財産が自宅不動産のみで、これを残される配偶者のために生前贈与していたような場合に、被相続人の持戻し免除の意思表示が認められない時、他の相続人と折り合いがつかなければ、自宅不動産を売却処分するより途はなく、残された配偶者が、終の棲家を失ってしまうという事態が生じてしまいます。
 高齢化の進展した現代社会においては、残される配偶者も高齢化しており、単身の高齢者が新たに住まいを見つけるのは容易ではなく、問題となっていました。

 このような事態を受けて、改正法では、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産の遺贈や贈与がなされた場合には、持戻し免除の意思表示がなされたものと推定することになり、残された配偶者の保護が図られています。
 この推定が及ぶ場合、従来は、遺贈や相続を受けた配偶者(受益者)において、被相続人に持戻し免除の意思表示が「あった」ことを立証する必要があったのが、受益者以外の相続人において、被相続人には持戻し免除の意思表示が「なかった」ことを立証しなければなりません。

② 配偶者居住権等の創設
 改正法では、残された配偶者の住まいについて、自宅不動産が、他の相続人に相続などされた場合についてもケアされており、相続開始時に、遺産である居住用建物に無償で居住していた被相続人の配偶者は、遺産分割が確定するまでの間、または、相続開始から6か月が経過する日のいずれか遅い時点まで、引き続き、当該居住用建物を無償で使用することができるようになりました(「配偶者短期居住権」)。
 この配偶者短期居住権の創設によって、残された配偶者は、ある日突然、住まいを失うようなことはなくなり、自宅を出なければならないとしても、最低でも6か月の猶予があり、この間に新たな住まいを見つけることが可能になりました。

 また、遺産分割の対象となる財産の一類型として、「配偶者居住権」という概念が創設されました。この権利は、被相続人の財産に属した建物に居住していた配偶者を対象として、終身又は一定期間、配偶者にその使用及び収益を認める法定の権利で、遺産分割等における選択肢の一つとして、配偶者に居住権を取得させることができるようにするものです。
 これまでは、被相続人の配偶者が、相続開始後、被相続人名義の居住用建物に住み続けるためには、原則として、当該建物の所有権を取得する必要がありました。
 しかしながら、居住用建物の不動産としての価値は、高額となるのが一般的であるため、これを相続(取得)すると、それだけで配偶者の法定相続分を満たしてしまい、現預金など他の財産を取得することができなかったり、わずかな金額しか得られないといった事態が生じてしまい、残された配偶者は、せっかく住まいの所有権を確保しても、早々に手放さなければならない事態に陥ったり、生活に困窮するなどの問題が生じていました。このような事態を回避するため、残された配偶者を保護する観点から創設されたのが配偶者居住権です。

 配偶者居住権は、居住建物の所有権ではありませんので、配偶者は、自由にその居住建物を売却したり他人に貸し出したりすることはできませんが、その分、相続財産としての評価が低く抑えられ、かつ、配偶者が住まいを失うことなく、他の遺産を取得することも可能になります。
 ただし、当該居住建物が、被相続人と配偶者以外の者の共有となっている場合には、適用されませんので注意が必要です。(後編へつづく)
                               弁護士 上 将倫

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