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27 (追記)自社株買いは、理論上、株価下落の要因では?

菊池捷男

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テーマ:コーポレートガバナンス改革

27 自社株買いは、理論上、株価下落の要因では?

 巷間に、というより新聞やインターネットで見る言葉に、「自社株買いは株主への利益還元になる。」とか、「利益還元になるとされている。」という言葉を見るが、上場会社が自社の現金を使って証券市場で自社株を購入すると、それが株主一般の利益になる、という法則性が見られるのだろうか?

(1)利益還元になるという論者の弁によれば
➀ 自社株買いは、株価の上昇要因になる、と言う。
たしかに、自社株買いという需要が発生すれば、株価は需給関係の中で形成されるのであるから、一時的には株価上昇の原因になることは考えられる。しかし、自社株買いという宴(うたげ)の後、いつまで値上がり状態が続くのか保障はなく、“歓宴尽きて哀情多し”になることが多いのではないだろうか。いずれにせよ、自社株買いが株主全員への利益の還元になるという法則性は認められるものではあるまい。

② PBR(株価純資産倍率)を高めるから株価上昇要因になると言う論者もいるようだ。
しかし、これは理屈に合わない論である。
PBR(株価純資産倍率)は、株価を1株あたりの純資産額で割って求めるものなので、会社の純資産の中からキャッシュを持ち出して(持ち出し面では、純資産は減少する)自社株を購入しその自社株を金庫株(自社の財産)にしないで償却すれば(取得面では、純資産は増えない)、その結果、純資産額は減額することになり、したがって、PBR(株価純資産倍率)は高くなるのは分かる。しかし、そのことと株価が上昇するかどうかは別問題である。
PBRは常に一定の数値にとどまるという法則はないからである。
上場会社によっては、PBRが1未満の会社もあれば、PBRが5も10もの高い数値を出している会社もあるのだ。
前者のことを「太った豚」、後者のことを「痩せたソクラテス」と形容してみたこと過日のコラムで確認されたい。
PBRの数値と株価値上がりの間には何の因果関係もないのである。

③ 自社株買い+買った自社株の償却=株価の下落・・・が理論的
 自社株買いをして購入した株式を償却すると、自社株買いに使った現金(他の資産でも同じ)がそれまで生み出していた運用益は、その後なくなる。
そうなると、1株当たりの純利益が減る。
純利益が減れば、理論上、株価は下がる。
なお、自社株買いをして得た自社株を、償却しないで自社の財産(金庫株)にした場合でも、金庫株には配当金は付かないので、結果は同じ。
だから、自社株買いが株価上昇の原因というのは、真逆のことを言う論ではないのか?
理論上、自社株買いは、株価下落の要因では?

④もともと会社法は、会社の自社株買いを禁止していた。弊害があると考えられたからである。それが日本の株価が暴落して著しく安くなった時、議員立法によって自社株買いを解禁した歴史がある。この自社株買いの解禁については、賛成した者ばかりではないのである。

(2)弊害にも注意が要る
➀資金不足になるリスク
 自社株買いに多額のキャッシュを使った後で、世界を襲ったコロナ・ウイルスのパンデミック(世界的大流行)や、ロシアのウクライナへの軍事侵攻が引き起こした数多い経済指標の激変化を経験して、キャシュ不足になったのか、多額の劣後債を発行した会社もあったようだが、このようなリスクが生ずることも考えておく必要があるだろう。
(追記)
2023年5月16日、楽天が3300億円の公募増資をすると発表した。携帯電話事業の設備投資の負担が重く、最終赤字が続いたことによるものようだ。おそらく楽天も、携帯電話事業に乗り出した時点では、こんな結果になるとは考えてもいなかったと思われるが、事業経営の明日のことは、予想外のことも多々起こりうることであろう。アメリカでも米シリコンバレー銀行(SVB)、スイスでもクレディ・スイスの破綻など大企業が破綻している昨今のことだ。
それだけに一部の株主の意向に迎合するに似た自社株買いは、リスクがあるのではないかと思われる。

② グリーンメイラーを生ませないことも重要
 自社株買いを一般の投資家が知るのは、会社が公表した後であるが、事前に特定又は少数の株主が知るとどうなるか?
いわゆるインサイダー取引が多発することも懸念される。
物言う株主の全てが、上場会社に自社株買いを求めているのではないことは承知だが、中にはそういう野心を鬱勃とさせ、上場会社に自社株買いを迫るグリーンメイラー(ドル札の緑色と脅迫状を意味するブラックメールを合わせた造語)がいないとは限るまい。
そうなっては、自社株買いは、不正の温床になる危険性も出てくるのではなかろうか。

(3)見識
 最近、知ったことだが、この2023年3月期の決算上の利益が過去最高のものになり、従業員に1人あたり平均500万円もの高額なボーナスを出し(まことに喜ばしいことである)、株主へも高額の配当を実施するとした中で、自社株買いはする予定はないと言った上場会社の社長がいるようだ。
これは見識だと思う。

(4) 書籍とニュースと情報
東洋経済新報社が2021年12月3日発行した「GAFA next stage 」(スコット・ギャロウェイ著)には、「自社株買いは、短期の投資リターンを高めるために企業の将来を犠牲にする時限爆弾だ。」と書かれており、日本経済新聞2022年4月6日付け記事が「バイデン政権が自社株買いの実施企業への課税や規制強化を掲げた」ことを報じており、このあたりの情報を見ると、自社株買いが投資家に幸福ばかりを与えてくれるものでもなさそうだ。

(5) それより投資に、また、配当に
 自社株買いができるということは、キャッシュが余っているということだ。
2023年4月6日付け日経新聞の社説「企業は資本を生かす経営改革の断行を」は、日本の企業全体で100兆円規模に膨らむ手元資金があるのに、これが生かせていないことを指摘している。
 同社説も言うように、「稼いだ資金を将来へ向けた設備投資や研究開発、企業買収に向けてこそ利益の成長がある。」のだから、自社株買いよりは、M&Aに、人材投資に、現社員への給与・賞与の増額に、さらなる増配に、これを充てるべきではないのか。
 その方が、生産性の向上、雇用の増大、消費の拡大など、経済に波及する効果は遙かに大きいのではないのか。

 折りも折り、本日である2023年4月24日付けの日本経済新聞記事「新規ユニコーン、10分の1に急減 1~3月、マネー流入細る」によれば、投資マネーの減少によって、世界的にスタートアップの成長にブレーキがかかってきたこと、米調査会社によると、1~3月に誕生したユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)は13社と前年同期の10分の1に減ったこと、イノベーション(技術革新)をけん引するスタートアップの減速は産業や経済の新陳代謝の遅れにつながる可能性があることを報じ、その主因は、投資マネーの減少だと、断じている。
 投資マネーとして、投資家から預かった現金のはずである株式を、その投資家の一部にお返しします、というに似た自社株買いが、本当に価値あるものかどうか、考えてみてもよいのでは・・・

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菊池捷男
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