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14 太った豚より痩せたソクラテスになれ

2023年4月5日 公開 / 2023年4月8日更新

テーマ:コーポレートガバナンス改革

コラムカテゴリ:法律関連

14 太った豚より痩せたソクラテスになれ

(1)言葉の意味と応用編
「太った豚より痩せたソクラテスになれ」という言葉は、1964年3月、東京大学の卒業式で、当時の総長であった経済学者の大河内一男氏が語り、一世を風靡した言葉になったが、意味は、若い人は、財産より知性を磨けということである。
私は、この言葉を、応用編として、今の上場会社のトップに贈りたい。

すなわち、ここで言う「太った豚」とは、市場で形成される株価よりも、企業の解散価値の方が高い会社を言い、「痩せたソクラテス」とは、市場で形成される株価よりも、解散価額の方が低い会社を意味する言葉として使ってみたいのである。

(2)太った豚はハゲタカファンドの餌食になるリスクあり
 かつてアメリカでは、「太った豚」は、ハゲタカファンドからの破壊的敵対的買収の対象になり、解体され、資産が売られ、市場から消えていったという現象が起こったことがある。
 それは、解散価値(株価純資産倍率PBR1倍)を基準に、株価が低い会社(太った豚)は、明日の利益に対する期待値がマイナスということになり、逆に、高い会社(痩せたソクラテス)は、明日の利益に対する期待値が大きいということになり、太った豚を解体して財産をバラ売りした方が利益になるものなら、ハゲタカファンドには美味な料理と言うことになるからである。

 今、上場会社は、物言う株主(アクトビスト)より、太った豚を脱して、痩せたソクラテスになるべく、価値の創造を強く求められているのである。
 実は、日本にも、かつて破壊的敵対的買収目的を疑わせる仮処分事件があった。
 事の起こりは、株価に比べ資産内容のよいブルドックソースという会社に、外国籍の某ファンドが公開買付(TOB)をかけたことである。
これに驚いたブルドックソースは、ファンドに対し、質問状を出し,その回答を得たが,それによると,ファンドは、①日本において会社を経営したことはなく,現在その予定もないこと,②現在のブルドックソースをファンドが自ら経営するつもりはないことが分かった。
 そこで、ブルドックソースは、ファンドの買収を「濫用的買収」であり法的に許されない買収だとして,防衛策として、新株予約権(この権利を行使すると株式が与えられるという権利のこと)を全株主に与えた。
 その内容は,ファンド以外の株主はその権利を行使すると株式が取得できるが、ファンドが新株予約家を行使してもブルドックソースの株式は与えず、その代わりに金銭を与えるというものであった。
 そうなると、ファンドは、ブルドックソースを買収できなくなるので、東京地裁に対し、この防衛策は株主平等の原則に反し無効だとして、差止めを求める仮処分を申し立てた。しかし、一審、二審、三審とも、ブルドックソースを勝たした。要は、防衛策は認められたのであり、ファンドの買収は認められなかったのである。
 
 この仮処分事件で、ファンド側の、株主平等の原則に反するとの主張について、最高裁判所平成19年8月7日決定は「法は・・・株主平等の原則を定めている・・・株主平等の原則の趣旨は,新株予約権無償割当ての場合についても及ぶというべきである。・・本件新株予約権無償割当(により)・・・ファンドは,その持株比率が大幅に低下するという不利益を受けることとなる。(しかしながら,)特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の存立,発展が阻害されるおそれが生ずるなど,会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には,その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても,・・・これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない。・・・(本件が,その場合に該当するかどうかは)株主自身により判断されるべきものである・・・本件(株主)総会において,本件議案(敵対的買収防衛策)は,議決権総数の約83.4%の賛成を得て可決された・・・上記判断は,・・・尊重されるべきである。したがって,・・・本件新株予約権無償割当ては,株主平等の原則の趣旨に反するものではなく,法令等に違反しないというべきである。」と判示した。
この司法の判断は、株主の意思を尊重したものである。

 司法(最高裁)はこの件では、ファンドを負かせたが、 そうかといって、太った豚を、そのままにしておくのは、上場会社という国と国民の財産を無為のママ放置しておくに等しく、それは許されないことであろう。

(3)東証と物言う株主(アクティビスト)の要請
 東証は2023年3月31日、プライム市場とスタンダード市場に上場する約3300社のうちPBR1倍未満の企業に対し、太った豚を痩せたソクラテスにする方法論を、具体的な施策にすることを要求した。
物言う株主(アクティビスト)も、それ以前から上場会社に対し、同じ要求をしてきている。

(太った豚を痩せたソクラテスにする方法論は、明日のこととする。)

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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