30.ここまでで見えてきた、社外取締役のなすべき職務・あるべき姿
19 あなたの監査役会設置会社の理念は何ですか?
上場会社には、①従来型の監査役会設置会社、②2003年に導入したアメリカ法由来の指名委員会等設置会社、それに、③2015年に社外監査役を廃して社外取締役を作りやすくする目的で創設された監査等委員会設置会社の三つの機関設計の会社がある。
そのうちで60%強が監査役会設置会社である(2022年7月31日現在)。
では、監査役会設置会社には、どのような理念があるのか?
沿革に沿って考えてみたい。
(1)沿革に理念なし
株式会社を規律する法律は、最初、1899年(明治32年)に制定された「商法」内に置かれた第2編である。これができた経緯は次のとおりである。
すなわち、我が国は、近代化のため、フランスの著名な法学者であったボアソナードという人物を招聘(しょうへい)して、日本の民法典をつくった。また、国会も通った。公布までされた。
ところが、その後に、民法論争という事件が起こり、この法律は施行されないまま日の目を見ることができなかった。
そのためこの時にできた民法(旧旧民法)は、幻の民法と言われることになった。
そして、民法典は、改めてドイツ法に範を求めてつくられた。これが旧民法である。
日本の基本法たる民法典の典拠を、何故、フランス法からドイツ法に変えたのか? 民法論争の中味はどうであったのか?については、
表向きは旧旧民法を施行しなかったのは、旧旧民法の典拠にした“フランスは共和制で、日本の天皇制と合わないから”だとか、“日本の家父長制度に合わないから”だという理由であったが、真の理由は普仏戦争によってフランスが簡単にドイツに負けたことにあったらしく、時の明治政府が「殖産興業・富国強兵」を国是としていたところから、敗戦国の法律ではなく戦勝国の法律を導入せよとの論となって、フランス由来の法ではなくドイツ由来の法律にしたものだと、当時、巷間広く喧伝されたもののようである。
やがて商法典(会社法はその第2編)を制定することになったとき、民法との整合性が必要なことから、会社法(当時の商法)は民法と同じく、ドイツ法を典拠にすることになったのである。
とはいうものの、日本はドイツ法をそのまま採用したわけではない。日本人の価値観による修正がなされた。監査役制度もその一つである。
であるから、日本の会社法の導入そのものが、高い理念を掲げたうえでなされたものではなかったのである。
現在、ドイツの会社法には、一定程度、「経営」と「監督」が分離し、監査役会には、取締役の選任・解任権がある。その点は、日本の指名委員会等設置会社と同じである。
もっとも、日本法の経営と監督は、執行役と取締役会が分担しているのに対し、ドイツ法は取締役が経営し監査役会が監督するものではあるが。
しかし、日本の監査役会設置会社には、経営と監督の分離はない。
であるから、日本の会社法はドイツ法を典拠にしたといっても、こと監査役会に関しては、似て非なるものである。
(2)監査役会監査と監査委員会監査の違い
ア)監査対象の広狭
監査役会設置会社における「監査役会監査」の対象となるものは「違法性監査」である。
妥当性監査はできない。
監査役は取締役ではないため、業務の執行に責任を負わないからである。
したがって、監査役が取締役会に出席して、“もっと投資をしろ”だの“M&Aを積極的にしろ”だのという意見は言えない。そう意味でいうと監査対象が狭いのである。
イ)独任制
しかし、監査役には、監査役会の意見(多数意見)と違う意見があれば、単独でその意見を表明することはできる。
“監査役会は違法を疑う事実はなかったと報告したが、私監査役Aは、“会社には、独禁法違反の疑いがある。また、品質データねつ造の疑いもある。代表取締役社長には背任を疑える行為が認められた。理由は次のごとし。”などの意見書を提出し、株主総会で披露させることができる。
しかし、監査委員会監査には、このような監査委員の独任制は認められていない。そのため、監査委員会監査を、チームプレイの監査という学者もいるくらいである。
なお、この独任制は、最高裁判所の裁判官が書く少数意見などと同じく、個々の監査役の意見が尊重される制度である。
すなわち、最高裁判所判決を出す際、裁判官の間で見解が異なる場合は、多数意見が裁判所の判決になるが、その意見とは異なる意見を持つ裁判官も、自分の意見を、判決の中に、少数意見や補足意見として、堂々と書くことが許されているのである。
監査役も、監査役会の意見と異なる意見の表明が許されているのである。
これは、監査役会設置会社にのみ認められた制度であり、指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社の監査委員や監査等委員には認められていないのである。
さて、監査役会設置会社の経営陣や監査役の皆さま、あなたの会社の機関設計は、監査役会設置会社のままにされていますが、理念は何ですか?
次回のコラムでは、特定の上場会社に対する質問を通して、より具体的にこの問題について触れてみることとする。