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6.仏つくって魂を入れ忘れた東芝の例

菊池捷男

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テーマ:コーポレートガバナンス改革

6.仏つくって魂を入れ忘れた東芝の例

では、会社の機関設計をアメリカ法由来の指名委員会等設置会社にすれば、会社のガバナンスが良くなるのか?といえば、必ずしも、良くなるとは言えない。

 東芝は、我が国に指名委員会等設置会社(当時は「委員会等設置会社」)制度が導入された2003年に、この機関設計を導入した会社であったことから、コーポレートガバナンスの先駆者とまで称揚されたが、やがて次のような不祥事が続いて、コーポレートガバナンス改革の無さという馬脚を現すことになった。

(1)ウエスチングハウスの買収劇に見られるデューディリジェンスの欠如
東芝は、2006年に米国の原子力発電会社であるウエスチングハウス(WH)を54億ドル(当事の為替相場で約6400億円)で買収したが、これには問題があった。
第1がM&Aを試みる場合、対象になる会社に対する法務デューディリジェンス(DD:なお、DDとは危険性調査のこと。)、財務DDおよび税務DDを徹底的になすべきであったが、それができていなかった。
すなわち、WHは、かつては名門の原発会社であったが、1979年に発生したスリーマイル島の原発事故以後30年間にわたってアメリカでの原発建設は停止されていたので、WHからは原発建設のスキルや知見を有していた優秀な技術者は離職し、原発の設計図すらまともに描けない会社になっていたのに、これを見落としたこと、
第2が、そんな「もぬけの殻」のWHという会社の競売に6400億円という巨額の金額で入札したこと。ちなみに、同時に入札した、二番手の入札額は、三菱電機の2000億円であったというのであるから、東芝の入札額の大きさには、多くの識者や投資家から疑問の声が上がったほどであった。

(2)不正会計処理の発覚
東芝は、2015年に、証券取引等監視委員会の調査で、WHの買収その他で生じた損失を、不正会計処理で隠蔽していたことが発覚した。

そのため、東芝は、改めて会計処理をし直し、ここで1兆円を越える損失を計上し、これにより債務超過に陥る。そして2017年、東芝は、債務超過を解消するため全発行済み株式数の53.8%にもなる約6000億円もの大型増資を敢行し、ヘッジファンドが新しく株主に登場。東芝事件第二幕につながる。

(3)監査委員会の監査のお粗末さ
  東芝問題第二幕は、次の事件で始まる。
2020年に開かれた株主総会での議決権行使につき、海外の株主に不当な圧力を加えたのではないかという疑惑をもたれた件が生じた。
このため、監査委員会は、その事実調査のため、外部の弁護士より成る第三者委員会に調査を依頼した。
第三者委員会は、その調査の一環として、大株主の米ハーバード大学の基金運用ファンドに問い合わせをしたところ、同ファンドから「著しく不適切な内容の接触を受けたため、議決権行使をしなかった」との報告を受けた。そこで、第三者委員会は、東芝の監査委員会に対する報告書には、そのことを記載した。
しかし、東芝の監査委員会は、「東芝は、海外の株主に対する不当な干渉に関与したことは認められなかった」との意見を、第三者委員会の報告だとして、公表した。

 つまるところ、東芝の管理委員会は、「著しく不適切な内容の接触を受けたため、議決権行使をしなかった」という大株主の米ハーバード大学の基金運用ファンドからの報告をそのまま報告しないで、「東芝は、海外の株主に対する不当な干渉に関与したことは認められなかった」と、曲解してみせてくれたのである。

このように、東芝の監査委員会の仕事ぶりは、まことにお粗末としか言いようがないものであった。
この監査委員会の曲解報告は、その後判明したことにより、東芝は、2021年6月の定時株主総会で選任を求める予定であった取締役候補者から、このときの監査委員会の委員長ともう一人の監査委員を、候補者から外さざるを得なくなった。この両名に対する信頼が得られず、取締役として選任される見込みはないと経営陣が判断したからであろう。

これら東芝の例を見ても、会社の機関設計を指名委員会等設置会社にしたらコーポレートガバナンスが良くなる、というものではないことは明らかであろう。
要は、仏(機関設計を指名委員会等設置会社にしたこと)を作っても、魂を入れないときは、何の役にも立たない、ということなのである。

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