ポレートガバナンス・コード改革が動き始めた② 代表取締役の解職をクーデターというのは、昔の話
取締役の監視義務
問
Q1 取締役には、経営陣のすることを監視する義務はあるか?
Q2 もし義務があるとした場合、その義務はどのような内容のものか?
Q3 その義務は、誰に対する義務か?
Q4 会社の債権者が、取締役の責任を追及する法的手段は何か?
答
A1 次の要件を満たした会社の場合は、取締役に監視義務がある。
(1)リスク管理システムが整備された会社の取締役であること
大阪地方裁判所平成12年9月20日判決(いわゆる大和銀行事件判決)は、我が国の裁判史上では初めて、取締役には「リスク管理システム(いわゆる内部統制システム)を整備する義務があると判示したことで一躍有名になった判決であるが、同判決は、「取締役としての善管注意義務及び忠実義務の内容をなすものとして・・・健全な会社経営を行うためには、・・・事業の種類、性質等に応じて生じる各種のリスクの状況を正確に把握し、適切に制御すること、すなわち・・・リスク管理システム(いわゆる内部統制システム)を整備する義務がある・・・リスク管理システムの大綱については、取締役会で決定・・・し、・・・代表取締役及び業務担当取締役は、・・・リスク管理システムを具体的に決定するべき職務を負う。」と判示し、また、「取締役は、・・代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理システムを構築すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負う」と判示した。
この判決が出された後、会社法の改正でこれが明文化され、現在では会社法362条4項6号、会社法施行令100条第1項各号の義務として整備されている。
であるから、取締役に「監視義務」があるのは、リスク管理システムが整備された会社の取締役であることが要件の1になる。
(2) 大会社である取締役会設置会社の取締役であること
取締役のリスク管理システム整備義務は、大会社(資本金5億円以上又は負債が200億円以上ある会社)で、かつ取締役会設置会社に限られた義務である(会社法362条5項)ので、取締役の義務だといっても、大会社の取締役に限定される。
結論:
以上の2要件を満たした会社の取締役には、限定的な監視義務はあるが、それ以外の機関設計の会社の取締役には、監視義務はない。
A2 監視義務の内容
取締役の「監視義務」は、前記判決で言うように、「代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理システムを構築すべき義務を履行しているか否かを監視する義務」である。無限定な「監視義務」ではない。
A3 誰に対する監視義務なのか?
これは、会社に対する義務である。会社債権者など第三者に対する義務ではない。
すなわち、前記大和銀行事件判決は、株主代表訴訟(取締役の責任追及訴訟)で明らかにされた法理であり、その後会社法で明文化されたのも会社に対する義務として明文化されたものであって、会社債権者など第三者に対する義務ではないのである。
A4 会社債権者が会社の取締役に対して責任を追及する方法
それは、会社法429条第1項の要件を充足した場合だけである。
すなわち、取締役が「取締役としてその職務を行うについて悪意または重大な過失があったことによって第三者に損害が生じた場合」だけである。
これについては、取締役の責任を認めた裁判例、認めなかった裁判例、いずれも無数にある。