9 手付解除はいつまでならできる?
不動産の売主には買主に対し、買主に損害が発生することが予見できるときには、その事情を説明する義務があります。
東京地方裁判所令和3年7月20日判決の例を紹介します。
この事例では、売主が土地を、同土地上にあるAビルを解体して売るという契約を締結した後、契約どおりAビルを解体して土地を買主に引き渡したものの、Aビルの解体によってAビルとは物理的に一体となっていた、又は、Aビルと密着していた隣地上のBビルの壁面の建材が剥離落下した(Aビルを解体した10か月後)ため、買主において売買対象の土地が使えなくなり、賃貸収入が得られなくなった事案です。
判決は、Bビルの外壁が54年間という長期間にわたり全く補修されておらず,老朽化や長期間未補修のため剥離等の危険が生じうる状態にあり,売主もこれを予見し得たことなどから、売主には、「売買契約に付随して、原告(買主)に対し、本件解体工事後に露出したBビル外壁からの建材剥離によって本件土地の利用が妨げられる可能性を説明し,対処を促すべき法律上の義務(これは契約上の義務であるとともに,不法行為法上の義務でもある。)を負っていたと評価するのが相当である。」と判示し、売主に対し、駐車場が使用できなくなった期間の賃料減収分を損害賠償せよと判示しました。
なお、この件で買主に生じた損害は、駐車場として使用できなかった期間の賃料の減収分ですが、その責任は、Bビルの所有者にもあるものの、このことは、売主とBビル所有者の内部的責任割合の問題であり。「売主の義務違反と本件事故によって原告に生じた賃料収入減少との間の相当因果関係を否定するべき事情ではない。 」と判示しています。